ETIC.リブランディングプロジェクトの軌跡~ETIC.のタグラインを1枚絵で表したビジョンイメージボード®はどのようにして完成したのか

ETIC.(エティック)は30周年を機に、新タグライン『行動を起こす人に伴走し、つなぎ、ともに「あたらしい社会」をつくる』を表現する*ビジョンイメージボード®を制作しました。2023年12月の30周年記念イベント「ETIC.30周年ギャザリング」会場での初のお披露目となりましたが、会場でご覧いただけましたでしょうか?
(*ビジョンイメージボード®:言葉では伝わりにくい企業のビジョンやパーパスなどを1枚絵で可視化するサービス)

まずは、この作品のコンセプトストーリーをご紹介します。

▼コンセプトストーリー

この世界には、アントレプレナーシップの「核」が眠っている。 「核」は、惑星で活動する一人ひとりのアントレプレナーシップが発揮されると、赤く輝き出し、目覚め、 社会が「新たな社会」へと変容していくという言い伝えがあるらしい。

惑星の各エリアはボーダレスにつながっていて、起業や社会課題、地域課題など、様々な領域で様々な人が挑戦する生態系が形成されている。

そして、この星に住む誰もが、心にアントレプレナーシップの火を持っている。心に火が灯っている人もいれば、まだ灯っていない人もいるのが現状だ。

この惑星では、言い伝えを信じるお節介な人たち(=ETIC.)が、心に火が灯っている人同士をつなげたり、まだ灯っていない人たちの火が灯るような場をつくったりと、ありとあらゆる形で伴走している。

この世界では、人の心に火が灯ると、未来に対していくつもの道が拓けていく。その中から自らが進みたい道を自分自身で選び取り進むことで、また別の誰かの心にも火がついていく。

一方で、燃料切れや数々のハードシングスによって火が消えてしまう場合もあれば、アントレプレナーシップの火を消してしまう人や組織が存在したり、逆に燃えすぎて身体ごと焦がしてしまいそうになる人もまだまだいる。

こうした惑星の現状をもとに、今後さらに1人でも多くの人のアントレプレナーシップに火をつけるため、ETIC.星の住人は今日も各エリアで挑戦を続けている。

この核が赤く輝きはじめた時に、まだ見ぬ「新しい社会」が生まれていくと信じて。

ETIC.の活動をこうしてビジョンイメージボード®︎に描き起こして作品として世に生み出してくださったのは、妄想アーキテクツ株式会社のお二人です。実は同社代表の髙松瑞樹さんは、ETIC.のプログラムであるMAKERS UNIVERSITY4期生でもあります。今回、約5ヶ月の制作期間を通じてETIC.に向き合い、作品を生み出してくださったお二人に、これまでを振り返ってインタビューを行いました。

妄想アーキテクツ(株)代表取締役の髙松瑞樹さん(右)とヤマグチタツヤさん(左)

 

――はじめに髙松さんとMAKERS UNIVERSITY(以下、「MAKERS」)との出会いや、妄想アーキテクツを起業するまでのストーリーについて教えてください。

髙松:ETIC.とのご縁は、MAKERS1期生の吉田亮さんと知り合いだったことがきっかけでした。亮さんは、サムライや日本の歴史が好きすぎてDO THE SAMURAI株式会社という会社を立ち上げた方で、お会いした当時は「拙者、侍でござる」と和服で街を闊歩していて。侍になりきって毎日を過ごしている亮さんを見て、「こういう生き方もあるんだ!」と驚いたんです。そこで、当時高校1年で始めた弁論が大好きだった私は、亮さんにならって「弁論ガール」と名乗って活動を始めました。

2019年には、私自身もMAKERSに4期生として参加したのですが、当時は「結局、弁論で何をしたいのか?」の答えが出せず、どこかモヤモヤしながら活動を続けていて。

そんな中、2020年にコロナの影響を受けて、弁論の仕事が一気に減ってしまった時期があったんです。当時を思い返しても、暗黒期というか……。もやししか食べてなかったですね、あの頃の私は。

そんな時に、現在もタッグを組んでいるヤマグチさんと出会って、彼がやっていたYouTubeの動画編集を手伝うようになったんです。サムネイルや挿絵を描いたりしていくうちに「細かい絵が描けるんだね」と言われたことがきっかけで、現在のメインサービスである「ビジョンイメージボード®︎」が生まれました。

ヤマグチ:僕が企業ブランディングのお仕事を手がけていることもあり、「こんなに細かい絵を描けるなら、企業のビジョンやパーパスを絵で表現してみるのも面白いかもね」という話になったんです。
その会話がきっかけで、2021年に自分のクライアントの中期経営計画を1枚絵にする案件を一緒に手がけることがあって。そこからすべてが始まりました。

髙松:最初は絵の勉強をしながらだったので試行錯誤の連続でしたが、言葉で描けないことが絵にすることで伝えられるという手応えがあって。「これって実は弁論でやりたかったことと同じかも知れない」と思い、この道でやっていこうと覚悟が決まりました。

そして、2023年にビジョンイメージボード®︎をメインサービスとして展開する会社として「妄想アーキテクツ株式会社」を創業し、現在に至っています。
当時の詳しい話はnoteにもまとめているので、よかったら見てみてください。

その後、独立後に事業相談でお会いしたETIC.の鈴木敦子さんからのご依頼がきっかけで、今回のETIC.のビジョンイメージボード®︎制作がスタートしました。「ETIC.のリブランディングプロジェクトでタグラインを新たに創ったんだけど、社内に浸透させていくためにビジョンイメージボード®︎を作ってほしい」とご相談いただき、ぜひにと制作を引き受けさせていただきました。

ETIC.の場合の実際の制作工程。約5ヶ月の制作期間を経て完成した

これまでにないチャレンジングなコンセプト

――5ヶ月の制作期間を通じて、5回にわたって社員数名に約2時間ずつ問いを投げかけて頂きながらヒアリングをしたり、毎回の打ち合わせで丁寧に議論を重ねながら作品を仕上げていくプロセスが印象的でした。様々な情報を得る中で、最終的にETIC.を表現する時に「宇宙」や「惑星」を選んで頂きましたが、それはなぜだったのでしょうか。

ヤマグチ:ヒアリングでは「ETIC.は出口のない遊園地」と社内で例えることもあると伺ったのですが、遊園地だと「アントレプレナーシップのエコシステム」「ティール組織」というETIC.が大事にする“循環”や“生命体”のニュアンスを表現しきれないのでは?と感じたんです。

そこから30年間の活動資料を何度も見直すうちに、「ETIC.自体が惑星であれば、そもそも星そのものが生命体だから似つかわしいのでは」とアイディアが湧いてきて。ETIC.の活動や想いは宇宙のように壮大ですし、ETIC.という星から旅立った卒業生も描けるのでストーリーも描きやすい。さらには、都会から自然あふれる地方まで、ETIC.の活動の舞台を余すことなく描ける部分も美点だと感じ、「惑星」というコンセプトをご提案しました。

髙松:ヤマグチさんのアイデアには納得しつつも、いざ宇宙を描くとなると難しかったですね。当初、「惑星の断面図を描いて、折り重なった地層を通じて30年間の歴史を表わそうか」と試みたりもしました。ただ、議論を重ねる中で、「インパクトはあるけど、なぜこの惑星はえぐれなければならなかったのか?」などの疑問への回答が見つからず、紆余曲折を経て、完成品に描いた表現に落ち着きました。

ヤマグチ:これまで円や球体をモチーフにした作品を描いた経験がなかったので、髙松にとってチャレンジングなコンセプトをお願いしてしまいました(笑)。

髙松:球体は、遠近法の関係で端っこが小さく見えたりゆがんでしまうので、その点が難しくて。なので、完成品ではあえて遠近法やパースを崩して描いています。構図に関しても悩みましたね。ETIC.という組織を考えた時に「この事業部だけが目立っている」などのように変な上下関係を連想させるのは嫌だなと思ったったんです。そうした想いから、絵のどの面を上にして見てもらっても1枚絵として成り立つように構図を決めました。

――描いてくださっている期間中、「生みの苦しみ」を味わいながらETIC.と向き合ってくださっている印象をずっと受けていました。制作において、他に難しかった部分やこだわってくださった部分を教えてください。

ヤマグチ:ETIC.メンバーの描き方は最後まで悩みました。最終的に、赤い服を着ているのがETIC.メンバーということで描くことになったのですが、ETIC.の皆さんへのインタビューで「ETIC.のメンバーは主役になってはだめ、黒子でいないと」という想いが共通して強調されていて。かといって黒子だらけになると主役がいなくて、何の絵かわからなくなってしまうので、「黒子」だけど主役という矛盾を描くという塩梅が難しかったですね。

髙松:「事業部やプロジェクトの境界線を作りたくない」という皆さんからのリクエストにお応えすることも難しかった部分でした。気持ちは分かりつつも、全エリアをつなげてしまうとのっぺりした絵になってしまうので、どうしようかなと。

最終的には、大陸と大陸がパズルのように組み合わさって、ゆるやかに事業部/プロジェクトを表現するという形で落ち着きました。境界線は国境のようにまっすぐではなく、ぐにゃんぐにゃんとゆるやかに分かれている具合で描き分けて。よく見るとローカル事業部とソーシャル事業部が混じっていたりと、お互いのプロジェクトが微妙に混じり合いながら惑星を形成する形で表現しています。

ETIC.のビジョンイメージボードのゾーニング図。事業部やプロジェクトが入り交じる形でゾーニングされている。

ヤマグチ:ETIC.のサービスを紹介するのではなく、「いつどんな時代であっても、ETIC.のメンバーが自然とやっていること」を可視化することにもこだわりました。タグラインの「行動を起こす人に伴走し、つなぎ、ともに「あたらしい社会」をつくる。」の「つなぐ」1つをとっても、人によっては「ただ場をつくっているだけ」と捉えている方もいれば、「異なる国や文化の文脈をつなぐ」と解釈している方もいて。ETIC.の提供サービスを単に羅列するのでなく、活動の中で皆さんが体現されていたり、これから体現したいと思っている“アクション”を表現できたのではと思います。

ETIC.コーディネーターのどんな行動が描かれているか
1 MAKERS生の活動の場づくりをしたのち、雲の上から彼らの活動を見守る
2 MAKERS応援団の会やデモデイを支える
3 大学に訪問し、地域ベンチャー留学の説明会を開催している。地元の人をゲストに招いている。
4 地域ベンチャー留学に向かう学生を船に案内している
5 灯台から海全体を見渡し、「個」だけではなく「社会」がどうなるかを見守っている
6 エリアとエリアを繋ぐ橋をワクワクしながら作っている
7 社会課題の海で溺れた起業家を助けるべきか、タイミングを見計らっている
8 起業家の本音や葛藤に耳を澄ましている
9 どのメンターとマッチングさせようか、戦略を練っている
10 偶然を装ったマッチングが成功し、ニヤニヤしている
11 ETIC.スタッフが活動しやすい環境をつくるために惑星の水質調査を行うスタッフ
12 こっそり起業家の船を後ろから支えている
13 「こんなスーパーマンを採用したい!」というローカル起業家の野望に耳を傾けている
14 「大手で働いているが副業で地域に貢献したい」という人のために、地域に飛び込むターザンロープを用意している
15 森遊びラボで、関係者と一緒に泥だらけになって木を植えている
16 チャレコミのプログラムで、地域で活躍するステークホルダーの話を聞き、「なるほど、その手があったか!」と自分自身も学んでいるコーディネーター
17-1 17-2 たすき掛けプロジェクトで、社長交代のエスコートしている
18 組織の中で自分らしさを出すことができず、会社の外に飛び出すきっかけを探している人に、手を差し伸べている
19 普段は浮いている人に「おいで!」と手を差し伸べている
20 情報と人を繋げているDRIVEメンバーの様子
21 貢献したいという気持ちが溢れすぎて疲れてしまったコーディネーターと、優しく寄り添う管理部メンバー
22 キャリア面談で相手に寄り添い、「本当に転職で良いのか?」「誰と繋げるのがベストか?」を考えている
23 新しい惑星に飛び立つ人(卒業生)を見送る様子
24 海外から視察にやってきたNPO団体を案内している
25 海外で活動したい日本人起業家と、日本で活動したい海外の起業家をつなぐ
26 大規模なビジコンイベントを運営している
27 ビジコン(TSG)優勝者に「ここからがスタートだね!」と言い肩に手をポンと乗せている様子
28-1 28-2 TSGにどんどん人を呼び込んでいる様子。入れなかった人は別のエリアに案内。
29 「ETIC.と出会った人は幸せになる」と信じ、イベントの告知や最新情報をバラまいている広報メンバー
30 コアの中を整備し、今日もこの惑星にアントレプレナーシップが流れているかどうか確認している様子(管理部)
31 ETIC.メンバーとステークホルダーが共創した新たな惑星

 

今まで描いてきた作品の中で最も矛盾が多かったんです(笑)

――制作過程全体を通じて、お二人が感じたETIC.らしさ、他の企業や組織と違って特徴的だと感じた部分について教えてください。

髙松:ヒアリング当初、メンバーの皆さんが悩んでいる様子で、いい意味で回答が返ってこなかったんですね。「こちらの質問がよくなかったのかな?」と反省もしたのですが、思い返すと「あまりにもその場に貢献しようという気持ちが強いあまり、問いを真剣に考えすぎて発言が出にくい」という現象だったことに気がついて。

他の組織だと直感的にポンポン話される方も多い中で、「こんなにもETIC.の皆さんは私達に向き合ってくれるんだ」と気づいた時は、心の底から感動しました。その姿勢がたった1つのミーティングにおいても体現されていて、そこから「皆さんの期待にもっと応えよう!」と、気持ちがより燃えていきました。

ヤマグチ:ヒアリング中、メンバーの皆さんがご自身の活動について誇りや意義を持って語るのですが、最後は「でも、自分は大したことをしていませんので」と一様に謙遜される姿にETIC.らしさを感じました。この姿勢がメンバー皆さんに共通しているからこそ、ETIC.にはいい人/いい組織が社内外に集まり、あたたかく良質なコミュニティが醸成されているのだろうなとも想像できて、今回のお仕事を通じてETIC.により心を掴まれました。

――今回のお仕事はお二人にとって、どういう意味を持っていましたか?

ヤマグチ:自分達にとってはこの仕事を経て大きな自信になったように思います。先ほどお話したような「境界線は作りたいけど作らないでほしい」「黒子だけれども目立たせたい」など、今まで描いてきた作品の中で最も矛盾が多かったんです(笑)。それでも議論を重ねた上でどの矛盾も表現し切れたので、自信になりましたね。妄想アーキテクツらしい1枚になったと思います。

髙松:「MAKERSのメンバーである私が描く」という意味が大きかった気がします。ETIC.を通じて、挑戦の機会や仲間を得つつも、「結局、何ができたんだ?」と思うと、他のMAKERSメンバーに会いづらい時期もありました。でも今回の絵を通じて、「みんなよりは遅かったかもしれないけど、自分なりの答えを見つけてETIC.の絵を描いて帰ってきたぜ」という感慨深さがあったというか。ETIC.にも少しは恩返しができたかなって。

ただ、これで満足はしていないので、これからは今回のビジョンイメージボード®︎を今後のETIC.に活かすために何ができるのかを考えていきたいです。絵以上にもっとできることは何か、これからもさらに妄想を膨らませ、ともにカタチにしていけたら嬉しいです!

――ありがとうございました!

制作途中のイラスト