共創パートナーの声:認定NPO法人カタリバ 吉田愛美さん──2023年度アニュアルレポートより

2023年度アニュアルレポートに掲載された、共創パートナーの声をご紹介いたします。

全国でユース支援の機運が高まり、支援の担い手や資金の流れも多様化しています。支援のあり方も進化し、直接支援にとどまらず、伴走や人材派遣、助成による基盤強化まで含めた取り組みが広がっています。

一つの団体の活動だけでは、すべての10代に支援は行き届きません。地域の担い手を増やし、連携しながら支援の質と裾野を同時に高める仕組みづくりが、今後ますます重要になります。今回は、資金助成や他団体との共創を通じてコミュニティの拡大を目指す事例として、認定NPO法人カタリバをご紹介します。

認定NPO法人カタリバが取り組む「ユースセンター起業塾」。活動を始めた背景やそこからの学び、今後について、吉田愛美さん(ユースセンター起業塾 事業責任者)にお話を伺いました。

吉田 愛美(よしだ まなみ)さん
認定NPO法人カタリバ ユースセンター起業塾 事業責任者

1991年福島県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。地元の力になりたいと、転職を経て地元選出の国会議員秘書を勤めた後、2016年1月より現職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当した後に、全国高校生マイプロジェクト事務局にて学校支援や広報を担当。現在は、「ユースセンター起業塾」事業責任者として、10代のための居場所を立ち上げたいという自治体・団体・個人を支援している。

──なぜユースセンター起業塾(“10代の居場所をつくる仲間”を応援するインキュベーション事業)をはじめたのでしょうか?その背景をお伺いしたいです。

10代の子どもは日本に約1,000万人います。カタリバはおよそ10万人の10代にリーチしていますが、これは全体の1%に過ぎません。カタリバは「意欲と創造性をすべての10代へ」をミッションに掲げて活動していますが、今までのやり方では「すべての10代」にリーチするのは難しく、直接支援の限界を感じはじめていました。

一方で兆しとして、「自分たちの地域でもユースセンターをやりたい」という声も聞こえてきていました。そのような気運も高まる中で、自分たちがやるより、担い手を増やすことに貢献しようと考えるようになりました。

 

──ユースセンターを運営したい団体への伴走支援をしながら、「より広く・よい支援」へ向けて高めあえるのは、実践主体であるカタリバならではだと感じます。カタリバには、どのような学びがありましたか?

学びはたくさんあります。東京にあるカタリバのユースセンター、「b-lab」と「アダチベース」はいずれも区から運営を受託する公設のユースセンターですが、これらを視察した際の起業塾の団体の皆さんの反応は「これは地元ではできない」といったものでした。

カタリバのユースセンターには、自治体との連携や全国の皆さんからの寄付による運営資金があります。東北にある拠点も東日本大震災の寄付が原資で、島根県にある不登校の子どもが通う居場所も、行政との連携により成り立っています。

一方で、起業塾の団体の皆さんは運営資金の目途がない状態でも、想いから事業をスタートしています。認定NPO法人として20年以上活動してきた実績があり、運営資金がある上での立ち上げ・運営と、これから始める方々ではスタートラインが異なります。そのため、私たちのやり方を押し付けたり、地域で再現したりしてもらうということではないアプローチが必要だと感じました。

同時に手応えも感じています。例えば最近、「b-lab」のスタッフを起業塾の団体に派遣する取り組みを始めました。そこではユースセンター拠点の導線づくり、利用者との関係性の築き方など、居場所をよりよくするためにその場で実践したり、フィードバックをしたり、相談に乗ったりといったことをしています。

起業塾の団体の皆さんが理想とする支援・場づくりを実現するために、互いに意見交換しあい、カタリバに蓄積されている経験やノウハウを提供することは、皆さんの活動に役立てられるのだと気づきました。

また、カタリバが助成金を通じて、他団体を支援をする経験は初めてのことでした。以前は資金提供に対して「お金だけの関係になってしまうのでは」という恐れもあったように思います。しかし、団体を伴走支援するだけでなく、活動の原資となる資金も提供することで、一緒にやれることが増えるという感覚を持つことができました。

支援先と丁寧に対話し、資金繰りや体制づくりなどの難しい課題を乗り越えた経験も大きいです。それにより、カタリバに今までにはなかった選択肢が1つ増えました。最近では、被災地域で活動する団体への助成や困難な状況にある子どもたちへの奨学金制度など、資金提供を通じたより深度のある支援機会も増えてきています。

 

──ETIC.との協働は、どんな影響がありましたか? 今後に向けての期待があれば、それもぜひお聞かせください。

まず価値観の違いに驚きました。起業家支援をしてきたETIC.は、起業家の成長に向けてコミュニケーションする。カタリバは子どもたちへの支援をしてきた団体なので、教育に対するこだわりがある。起業家の先には子どもたちがいると思うと、目の前の起業家の成長を待てない。連携開始当初は、それぞれの団体が大切にしている価値観や考え方の違いを感じることもありましたが、今はお互いに理解しあえた部分が大いにあると思います。

これからは起業塾で支援する団体に限らず、より多くのステークホルダーと連携していきたいので、そこをぜひ一緒にやりたいです。個別の伴走支援の先で目指しているのは、10代の居場所の価値が認知されたり、動きを後押しする国・行政の制度ができたり、担い手が増えたりといった、「ユースセンター」を後押しする社会環境をつくることです。

最近では、近いテーマに取り組むNPOとも対話をはじめています。自団体だけでなく、全国コミュニティをつくりながら、物事をどう動かしていくのか。カタリバにとってあまり経験のないことなので、ETIC.のこれまでの経験も参考にしたいです。

 

──今後、ユースセンター起業塾やこのコミュニティをどう発展させていきたいですか?

避けたいのは、「ユースセンターはこうじゃなきゃダメ」と縛ることです。団体の皆さんはそれぞれの地域で持続可能な活動をするために、拠点がフリースクールや塾などの機能を兼ねたり、ほかの事業と兼業したりといった工夫を凝らしています。その多様性も大切にしたいですし、10代の居場所づくりを試行錯誤している方々が参画しやすいコミュニティをさまざまな形でつくりたいです。

また、地域で孤独になりながら奮闘する起業家の方々を見てきたので、お互いを励ましあえる場でもありたいと思います。それらはカタリバの手柄である必要はなく、「みんなでやった」という状況をつくるのが理想形です。

今は「ユースセンター」と呼んでいますが、大切なのは箱ではなく、子どもたちの環境です。概念を知ってもらうためにまずその場所を増やしながらも、「10代の子どもたちにとってユースワーク的マインドを持つ人との関わりが当たり前になっていくこと」がゴールだと思っています。


ユースセンター起業塾

家でも学校でも塾でもない、10代が思い思いに過ごせる場所。小さな子どものための児童館と異なるその場所は「ユースセンター」と呼ばれています。
ユースセンター起業塾は、全国各地でユースセンターを運営する・運営したいという団体・個人への経営支援や、近い将来ユースセンターを立ち上げたいと考える個人に対する起業支援を通して、より多くの主体者とともに、すべての10代に意欲と創造性を届ける取り組みです。


ソーシャルイノベーション事業 > ユースセンター起業塾

2023年度のアニュアルレポートでは、他にもさまざまな活動をご紹介しています。ぜひご覧ください。