自主経営組織における予算づくり

※本記事は「ETIC.ソーシャルイノベーションセンターニュース」2022年6月30日号からの抜粋です

こんにちは、ETIC野田です。梅雨らしい雨もないうちに、猛暑に突入した東京です。​​​​​​みなさんいかがお過ごしですか。

今日は「自主経営組織の予算のつくりかた」ということで、ETICの予算作成について、お話してみたいとおもいます。情報提供してくださったのは、財務マネジメントチームの大山さんと森本さん。

自主経営組織の…とえらそうなことを申しましたが、わたしたちも新しい組織運営になって1年弱、模索中のことも多いです。そうした“進化途中のETIC”の奮闘から、なにかヒントになることがあればうれしいです。

本題に入る前に、少し前提の話をさせてください。昨年6月、ETIC.は「スタッフ一人ひとりの起業家精神が発揮され、共創が生まれる組織づくり」を目指し、組織構造をピラミッド型から自立分散型に変更しました。※詳しくはこちらのリリースをご覧ください。

リリースにあるとおり、ETICではトップダウンで事業戦略や方針を決め、それに従って各部門が事業を進めるという方法は採用せず、各スタッフ一人ひとりが目的の実現に向けて、経営視点をもって判断をし、計画をつくっていく方法にシフトしています。

ここで、予算の作り方・考え方について議論して決めたことは、各事業部やプロジェクトの収支よりも、「ETIC全体の収支のバランスが大切」という考えに立とうというものでした。

これについては、自主経営組織への移行に向けて準備しはじめた2019年度当初、各事業部がそれぞれで考え、進めていくことを重視した結果、全体として赤字になってしまったという苦い経験が背景にあります。

そうした経験から、情報共有の仕組みや統一したルールをつくり、予算に関しては各事業部で収支の正確さを追うのではなく、ETIC全体として計算や管理をすることに比重を置き、毎年の収支目標を考えるようにしています。

課題を誰もが認知できるよう情報はオープンに。

全体の収支のバランスを見るためにも、全社の財務情報はオープンにしています。また、投資的なすぐには収益を出せないことでも、挑戦したいことがあれば、具体的な事業計画を出し、みんなの理解を得たうえで進めていくことができるようになっています。

こうした経営に関する意思決定は、誰もが参加することができる「自主経営会議」という場で進められます。実際にやってみると、計画通りに行かないこともあります。見込んでいたほど売上が出ない、予想より費用がかさんで利益が減りそう、といった具合です。予測がつかない事態によって、プロジェクトに遅れが出てしまうのは仕方がない部分もありますが、「お金」に関する遅れやズレは、致命傷にもなりかねません。

そうした事態を避けるために、ETICでは財務マネジメントチームが組成され、財務状況の確認や予算の調整、投資などの意思決定をおこなう「予算委員会」を年9回(当初予算作成時と、半期と第三四半期にそれぞれ3回ずつ)実施しています。

この予算委員会には各事業部(またはプロジェクトチーム)から、最低1名は参加することが義務になっています。ETIC.全体の予算に関して検討をし、意思決定をしていくプロセスに入っていただくので、各事業部の予算担当者のほか、誰が参加してもOK。オブザーブ参加も歓迎のオープンな会議です。

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森本

この会議で大事なのは、全社の数字をみなさんに見せ続けることです。予算に対して、現状はどうなっているのか、財務マネジメントチームは情報を取りまとめますが、われわれが何とか調整するという構造はつくらないように心がけています。気がかりな点は、論点として取り上げ続ける。「課題が認知されること」がとにかく大事です。

スタッフ一人ひとりの経営視点を育む。

全社で情報を共有し、その理解を合わせるために、いろんな工夫をしてきました。各事業部が入力するシートは統一したフォーマットにし、業務で使い慣れているGoogleスプレッドシート上に置いたり、予算作成のマニュアルも作成されました。

統一する必要があるのはフォーマットだけでなく、考え方もです。たとえば人件費。ETICでは一人のスタッフが、複数のプロジェクトにかかわっているので、誰がどの業務にどの程度時間を割くのか、予算段階で人員計画も立て、人件費を含めた収支のバランスも意識できるようにしています。

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大山

財務マネジメントの難しいところは、管理するだけに留まらないことなんですよね。目標や計画に対して現状はどうなっているかを意識しながら、改善をしていく、場合によっては計画を練り直すことをしなくてはならないことですよね。スタッフひとりひとりに、その意識を持ってもらえるように働きかけることが大事だなと。わたしたちも今なお試行錯誤中ですが。

森本:
昨年、決算の振り返りをETIC.全体でやったことも大きいですよね。事業部ごとに一年を振り返って、どんなインパクトを目的にして事業に取り組んだのかを共有し、財務や営業利益の観点からも、数字を含めて振り返る機会をつくりました。
それぞれの事業がどこに向かっているのか、目指しているインパクトに対して、このやり方がいいのかどうか、事業部をまたいでお互いにフィードバックしあったことも、全体の経営意識をあげることにもつながっているとおもいます。

野田:
たしかに、わたし自身もETICの予算や財務状況について、最近になってようやく見るようになった気がします(汗)。今後やりたいことはありますか?

一人で抱え込まない。まずは関わる人を増やすこと

森本:
財務に関しては、守りも攻めも両方を知っておかないといけません。僕たちも各事業部の予算管理をがちがちにしたいわけではなく、目的の達成にむけて、何ができるかを考えるために、情報を収集して管理や分析をしているわけです。
当然ですが、一人の人間がすべての状況を把握できるわけでもないので、チームで向き合うことが重要だとおもいます。

大山:
その通りですね。小さい組織だと財務を見ているのは、経営者か事務局長だけということもあるかもしれません。その状態だと、その人の頭のなかでしか課題は解決されません。問題の抱えこみを防ぐためにも、担当者を一人にさせないことは、とても重要ですね。

森本:
管理部門を担っていても、実は一人ひとり強みは違います。きちっと数字を拾い上げてキャッシュフローを注視することが得意な人もいれば、スタッフの顔を思い浮かべながら、資料やフォーマットを整えるのが上手い人もいる。世の中のトレンドと組織の成長を見据えて、どこに投資をすべきか考えたい人もいる。
一人の人間が100%の工数で仕事をするよりも、20%ずつでもいいから、財務にかかわる人を増やすほうが、結果として良いものにつながるかもしれません。

今回はETICの予算のお話をさせていただきました。この記事を書きながら、以前アメリカン・エキスプレス・サービス・アカデミーというプログラムで出されていた課題図書『真実の瞬間』に書かれていたことを思い出していました。

人はだれも自分が必要とされているということを知り、感じなければならない。
人はだれも一人の人間として扱われたいと望んでいる。
責任を負う自由を与えれば、人は内に秘めている能力を発揮する。
情報をもたない者は責任を負うことができないが、情報を与えられれば責任を負わざるを得ない。
ヤン・カールソン『真実の瞬間―SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略はなぜ成功したか』

今回取り上げた予算や財務については、まさにこのことを体現しているなとおもいました。スペースの関係で触れられなかったのですが、今回登場した森本さんはETICの予算や財務について、ごく初歩的なところも含めて、疑問を解消する勉強会を開いてくださっています。

わたし自身、数字を読むことが苦手で、会議で話されている内容についていけなくなることもあり、とても助かっています。また、いまさら聞くには恥ずかしいことも、勉強会では遠慮なく聞くことができます。わからないことをわからないままにしないようにする、その配慮がありがたいですね。

ETICも事業部の収支はつくれるようになってきたものの、まだ利益幅の見立てにズレもあり、そうしたことを踏まえた予算と計画づくりを進めている最中です。皆さんの団体でやっている工夫なども、ぜひお聞きしたいです。(野田香織)