自主経営組織化の最新情報(後編)〜ティール組織型の意思決定プロセスの導入〜

※本記事は「ETIC.ソーシャルイノベーションセンターニュース」2023年9月21日号からの抜粋です

こんにちは。ソーシャルイノベーション事業部の白鳥です。まだまだ残暑が厳しいですね。

前回はマネージャー職の廃止とその役割を3つに分割してマネジメントを行うことについてお話しました。

具体的な運用方法は、認定NPOとして必要なガバナンス・コンプライアンスの水準を確保するために、専門家の方と相談しながら検討してきました。

今回は後編として、3つに分割したマネージャー機能(以下、3役:ETIC.では3役と呼んでいます)を、どのような意思決定プロセスで運用しているかご説明します。

少しマニアックな内容となりますが、自主経営組織をはじめている方、これからはじめたい方で、どのような仕組みにすればよいかご関心のある方はぜひお読みください。

意思決定の原則

ETIC.の導入した意思決定の原則として、次のように決定の影響範囲が大きくなるほど、より多くの人の助言を得ることになっています。

  • 決定の影響範囲が自分の仕事の範囲内であれば、自分で考えて決定する。
  • プロジェクトやチームの範囲内であれば、他の担当者に確認したり、チーム会議で聞いたり、関係者を集めた臨時会議を適宜開いて助言を得て決定する。
  • 全社に関することであれば、他チームの関係者と自主経営会議で助言を得て決定する。また、必要に応じてチームを横断した関係者を集めたワーキンググループを組成する。

    ※ ETIC.ソーシャルイノベーションセンターニュース『自主経営組織における意思決定プロセス』より抜粋。

この原則をルールとして具体的に定めるには、いくつか明確にしなければならない点があります。

  • 「決定」とは何を指すのか?「助言」との違いは何か?
  • 自分で何でも「決定」して良いとなったら、チェック機能はどう担保するのか?不正はどう防ぐのか?
  • 自分で考えて「決定」するといっても、どの範囲まで決定して良いのか?「チーム内の影響」「全社への影響」とはどの範囲までか?

これらをどのように解決したかについてご説明します。

​​​意思決定を3種類に分ける

検討の結果、意思決定プロセスの種類を「①決裁(決定)」「②助言」「③ダブルチェック」の3種類に分割しました。

最初に、意思決定プロセスの中心的な役割を果たす「助言」の定義を明確にしました。

①決裁(決定)
一定の手続きを経れば(後述)、その内容をETIC.の意思として決定または確認することを指します。一般的な「決裁」の意味と同じです。

②助言
決裁をしようとする提案者が、関係する人や専門知識のある人に助言を求めることを指します。何かを決裁前には、決裁に影響する人や専門家から助言を求める必要があります。助言の内容は誠実に検討する必要がありますが、必ずしも取り入れる必要はありません。決定権はあくまで提案者にあります。ただし、具体的な反対提案がある場合は、そのポイントについて説明責任があり、反対提案を行った人の納得を得る必要があります。

次に、不正を防止するための方法を検討しました。自分に関することには自己決定権があるからと言って、何でも自己承認をしてよければ、不正に対するチェック機能が働きません。
そこで、決裁権は各個人にあるという原則を守りつつ、誤りや不正がある場合のみ否決できる「ダブルチェック」という方法を導入しました。

③ダブルチェック
提案者の提案内容に誤りや不正がないか確認することです。提案内容に問題がある場合にのみ、ダブルチェックを行い、提案内容を却下することができます。

「②助言」との違いがわかりにくいので、違いを解説すると次の通りです。
②助言…受け入れるかどうかは自分で決定できる(具体的な反対提案がない場合)。
③ダブルチェック…受け入れるかどうかを自分で決定することができない(ただし、誤りや不正がある部分に限る)

具体的な意思決定フロー

以上の3種類の意思決定を踏まえて、団体内の全ての意思決定についてフローを見直し、決裁権限表を再設計しました。
提案者と決裁者も前回の記事でご紹介した3役を取り入れています。具体例を2つご紹介します。

例1:経費の支出(参考:画像の表1)

年初に設定した予算の範囲内の支出であれば、担当者に決裁権があります。

  • 担当者が「提案」し、「決裁」できる。
  • 事業部内予算担当者が「ダブルチェック」する。
  • 経営管理部に「報告」する(※経費精算システム上で行う)。

年初に設定した予算の範囲外(想定外の支出など)であれば、やや厳しくなっています。

  • 担当者が支出を「提案」する。
  • 事業部内会議で「決裁」する。
  • 事業部内予算担当者が「ダブルチェック」する。
  • 経営管理部と予算委員会に「報告」する(※経費精算システム上で行う)。

例2:資金の借入れ(参考:画像の表2)

長期借入金は理事会での承認が必要と定款に定められており、それを反映しています。

1年以上の長期借入金を行う場合…
・経営管理部が借入を「提案」する。
・予算委員会と自主経営会議の「助言」を得る。
・理事会で「決裁」する。

1年未満の短期借入金を行う場合…
・経営管理部が借入を「提案」する。
・予算委員会の「助言」を得る。
・自主経営会議で「決裁」する。


※権限表より抜粋
※助:助言、ダ:ダブルチェック、決:決裁、報:報告

意思決定の影響範囲に応じて権限を見直す

「チーム内の影響」と「全社への影響」の範囲は、基本的に金額で設定しています。
例えば、新規事業の場合は次のように設定しました。

予算にない新規事業の企画承認(既存事業部内の場合)

  • 予算総額3000万円以上は、「全社への影響」として自主経営会議での決裁が必要。
  • 予算総額3000万円未満は、「チーム内の影響」として自主経営会議での決裁が必要。

新規事業の企画承認(既存事業部と関係ない場合)

  • 既存事業部の範囲を超えた新規事業が起こる場合は、「全社への影響」として自主経営会議での決議が必要

もちろん、3000万円未満の事業部決裁の範囲内であっても、他チームに影響があるものであれば、相手から個別に「助言」を得ることが推奨されます。
また、自主経営会議には、これまでのディレクター決裁から全社に関する決裁権限が集中することになりました。そこで、意思決定のプロセスの公平性と透明性を確保するため、次のようなルールを定めています。

参加対象者:「コアスタッフ」と呼ばれる、社員および社員同様に働く一部の委託スタッフが対象。
議決:1/3以上の参加、過半数の賛成が必要が必要。投票の公平性のため自主経営会議に参加できない人向けの不在者投票も行う。

運用してみて上手くいっていること・いっていないこと

日常の経費の決裁や、自主経営会議での事業承認などは、特に混乱もなく、想像以上にスムーズに上手くいっています。

特に、自主経営会議での承認は、全社から助言を得る機会としてもうまく機能していると感じています。担当者が持ち込んだ提案に対して様々な観点からフィードバックがつき、提案を取り下げるということも少なくありません。提案を取り下げた場合は、指摘を受けた欠点や見落としの部分をブラッシュアップし、次回の自主経営会議で再度提案することになります。

一方で、決議が必要な内容の設定や、決議に持ち込むまでのプロセスはまだまだ運用しながら改善する点も多くあると感じています。

さいごに

これまで2回に渡り、自主経営の現在地として、どのような制度を設計して運用しているかをご紹介しました。
約2年間紆余曲折を経て議論を進めながら決めた内容でもあり、今回はかなり細かく、読む方にとってはわかりにくい内容になってしまったかと思います。

ご不明点やご感想があればぜひお聞かせください。

今回は制度面から取り上げましたが、組織のカルチャーや仕事の進め方の変化についても、いずれご紹介できればと思います。こちらもうまくいっている面もあれば、課題も多く出てきています。

これで自主経営化に関する制度部分の改革は一区切りです。
とはいえ、自主経営組織への挑戦はまだまだ通過点です。これからも応援してください。