2023年度のアニュアルレポートに掲載されたスタッフ対談「私たちの目指す未来」をご紹介いたします。

2021年に自律分散的な組織体制へ転換する中で、「行動を起こす人に伴走し、つなぎ、ともに『あたらしい社会』をつくる」というエネルギーがそれぞれのスタッフの中で増していき、各領域で、多様なパートナーと共創するかたちで活動に広がりが生まれています。その実態や体感をスタッフに聞きました。

──自律分散的な組織体制へ転換して3年が経ちました。組織やスタッフにどんな変化を感じていますか?
山崎:この3年のあゆみで言うと、多くのスタッフが組織全体を見渡せる仕組みを整備できたのは大きな変化だと思います。例えば、四半期に一度、それぞれの事業の進捗を共有する「事業レビュー会議」や「予算委員会」。スタッフであれば誰もがその場に参加でき、成果や数字だけでなくそれぞれが事業に込めている想いやストーリーまで理解して、意見を交わすことができます。このサイクルが定着したことで、これまで経営を担ってこなかったメンバーも含めて、組織全体を捉えるチャンスが生まれたと感じます。
山内:それにより、組織の全体性に関心をもつ人も増えてきた感覚はあるね。経営に関わる人も増えてきました。
本木:そうですね。ただ全ての人が経営に関心をもつ必要はなく、距離感を選べる。関わりたい人が関われる環境であると良いなと思います。
山内:その感覚は大事にしたい。これからもう少し根付いていくといいなと思う部分ですね。ETIC.として、「何かを変えたい・生み出したいという意志を持つ多様なプレイヤー(行政、企業、NPO、個人など)が有機的に結びつき、影響しあうエコシステムを育む」という想いを共有することは前提。その上で、ETIC.の経営に関心がある人も、事業や特定課題に関心がある人もいてよい。
──「組織の全体性」という視点でみると、いまETIC.はどのような方向を向いているように感じますか。それぞれ個人の取り組みから感じることを聞かせてください。
山崎:インターナショナル事業部を立ち上げて、起業家が活躍の舞台を世界に広げていくことに伴走してきました。「エコシステムの中で、自分たちがどのような役割を発揮すると、課題解決に大きく貢献できるのか」を意識しながら、動いています。
例えば、最近NPOセクターで注目が集まっている遺贈寄付の領域。日本国内でその文化を創ろうとしているリーダーたちと、英国の遺贈寄付市場の事例から学ぶ機会を企画しました。英国では10人に1人以上が、遺言書の作成を通じて自分の遺産を非営利団体に寄付することを選択しています。その市場成長の背景には、遺贈する人、遺贈を受ける団体、双方を支援する機関やコミュニティが多く存在している。遺贈寄付を選択する人が増え、寄付がよりよく活用されるための支援のエコシステムが育っているように見えます。
日本にも同様の成長ポテンシャルはありますが、実現はこれからです。このように日本で新しい社会課の領域にチャレンジしている方々が、今の延長線上ではない未来を描くヒントとして、世界の事例やリーダーと出会って対話することは、とてもパワフルだと考えています。
本木:自分たちだけが取り組むのではなく、多様なステークホルダーとの共創がさらに進んでいると感じます。私は、ソーシャルイノベーション事業部で、企業や個人、NPOの方々とともに助成制度をつくり、運営しています。その中で、「共創の質が変わってきている」というのは、大きな手たえかもしれません。私(ETIC.)と、あなた(パートナー)との関係性だけではない、というスタンスをしっかり共有できるようになってきている。私とあなたとで、その先にいるセクター・人々、それを取り巻く社会に対して、どう変化をもたらしていくのか。「エコシステムをどう育むのか」を共通言語にできる方々とご一緒できていることが、一番大きいと思います。
組織内部で言うと、そのような感覚は、もちろん以前から持っていましたが、これまでは経営層やマネージャーがそのスタンスをホールドしてくれていたのかもしれません。今はチームの中でその感覚を共有できている。社会の変化も大きいです。自社の利益だけでなく、社会を主語によりよい答えを探そうという姿勢が醸成されてきているように感じます。
山内:それは自分もすごく感じます。「ともにエコシステムをつくりたい」という外からの相談も増えています。以前は、そのような思考をするのは、一部の起業家などに限られていた。でも、今は大学教授や企業人の方々から、そのような相談が持ち込まれる。
2024年には、能登半島地震もありました。被災地では、「命を守り、復興していく」という最優先の目的が真ん中にあり、それに向き合うスタンスがすごく問われます。たとえ企業だとしても、これを契機に自社の利益に誘引しようとする意識が強すぎると、復興が前に進まなくなる。企業が利益をあげてはいけないという意図ではないですが、ベースに最優先の目的への寄与があることがとても大切です。今、能登で活躍してくださっているセクターに共通して感じる本質は、その部分です。
自分は、いろんな中心を、多様に広げたいと思っています。1つのエコシステムではなく、多様なエコシステムが有機的につながっていく。それが日本各地の隅々まで、いろんなイシュー、いろんなセクターにまで広がることで、意志をもって何かしようとしている人が機会を得られるようになる。
その1つの切り口として、「防災」に取り組んでいます。地域の皆さんが、災害にあったときに、どういう役割を果たしながら復興に取り組んでいけるかは、東日本大震災以降、いくつかの災害の経験も経て改めて大事なテーマだと思っています。
現在、各地域をつなぎ、支え合える関係をつくっていくことを目指しています。20年前から地域づくりの文脈でつながってきた「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」のつながりが、今回の能登でも活きて、たくさんのコーディネーターが駆けつけてくれました。資金の手当てと人を送り込むこと、両輪をすばやく始動できたことには、手ごたえを感じています。
一方で、エコシステムが「社会システム」として広く認知されることも必要だという問題意識も、強く持つようになってきました。エコシステムは見えないので、認知されづらい。「社会システム」として枠組みを形成することで、多くの人から認知され、より大きな動きへと進化できる。ただ、システム化することで、硬直化したり機動力が落ちる側面もある。そのバランスをどう整えていくかが、今の課題感です。
本木:一人ひとりが自分を起点に、多様にエコシステムを育みながら、それぞれが有機的につながり合っていくというのは、納得感があります。宮城さんも、退任のタイミングで「これからは、一人ひとりがエコシステムの中心になってほしい」と話してくれていましたね。
山内:それぞれエコシステムを育みながら、共創の質をもっとあげていけるといいよね。
2023年度のアニュアルレポートでは、他にもさまざまな活動をご紹介しています。ぜひご覧ください。