大手企業でキャリアをスタートした伊藤いずみさんは、東北の震災復興での活動を経て、2016年にETIC.へ参加しました。現在携わっている事業やETIC.での仕事内容について語ってもらいました。
ーETIC.へ入る前はどういったことをしていたのですか?
一番最初は大手のBtoB企業で、BPO関連のコンサルやマーケティング支援をしていました。元々、学生時代から社会起業に関心があり、社会の課題を自分事としてアクションを起こしたり仕事にしていくことをしたいと思っており、一度社会に出て3年ほど経験を積んでソーシャルセクターで活動しようと情報収集をしていました。その中で3年たたず参画をしたいと思う事業に出会い、会社を退社しまして、東北の震災復興の現場に関わることにしました。
当時、ETIC.が実施していた「右腕プログラム」を活用し、岩手県大槌町の「大槌復興刺し子プロジェクト」に参画しまして、東北の文化を活かした新しい産業づくりを目指し、現地の方と協力して商品の開発・販売や事業戦略を描いて実行する役割を担っていました。
ーそこからETIC.へ入社したきっかけは?
社会の課題を自分事にしてアクションを起こし続けるためには、現場側の1つの事業の頑張りではなく、仕組みづくりや地域内外で共創をしていくことが必要と感じたからです。当時、現地側での活動や、自分ができることに限界を感じていました。地域で生業を作り、持続させていくことだけでもままならず、なかなか地域全体のことに視点が及ばなくなっていました。
単体で頑張っても思い描く社会に到達するだけの道筋が見えない。地域での事業を支える仕組みを作り、波及効果を生むことがやりたい。またそのためには、自分もそうした知識と経験を身に着けたいと思いまして。どこで何をするのがいいかなと調べている最中にETIC.で社会人インターンをしてみたことがきっかけです。
そうしてインターンとして様々なプロジェクトに関わっていた中で、継続的にこのまま関わるという話になりました。私自身も、現場感も持ちながら仕組みづくりにトライできる場としてフィットするなという感覚もありました。新たなプロジェクトの立ち上げに入ることになり、いつの間にか社員として入社する流れになっていました(笑)。
ーインターンをしていたらいつの間にか社員になっていたと。それは面白いですね。
そうですね。当時の事業部長などとの面接は後追いで行いました(笑)とはいえ、東北での活動期間中にもETICとの関りがあり、その後のインターンも通して、私自身としても自分が実現したいことに取り組むにはここが一番よいのか?ETIC側としても組織の雰囲気や仕事にフィットするのか?ということをお互いをしっかり見極めている背景があったからこそだと思います。
ーその立ち上げに入ったプロジェクトがローカルベンチャーラボですよね。どのようなプログラムなのですか?
地域で起業や新規事業をしたい人が、自分の事業構想を描き実現するための事業支援プログラムです。今年で7年目になり、累計360人の受講生を生み出しています。
ーちなみに、「ローカルベンチャー」とはどういうことを指すんですか?
地域に眠っている未活用の資源や自然資本を活用し、新たに生み出す事業のことを指します。必ずしもベンチャー企業である必要は無く、企業のリソースを使った新規事業や、個人が地域で立ち上げる活動も、自治体職員が地域の中で生み出す事業もローカルベンチャーです。
ーなるほど。ETIC.ではそのローカルベンチャーを増やす事業をしているんですよね?その辺りについて教えてください。
最近、やりたいことを伝えるために以下の図を作りました。まず中心に事業を生み出すプレイヤー(思いやアイディアを持った個人)の支援があります。個人への伴走支援だけではなく、都市部に比べてリソースが集まりにくい地域で彼らが事業を生み出していくために、機会・ナレッジ・人を蓄積しながら繋ぎ、多角的なネットワークや実験の土壌を作ります。
そこで実験が繰り返されることで、事業に成長していくものが生まれてくる。そうすると、また次の機会が生まれるし、ナレッジもたまる。そうしてまた新たなプレイヤーが生まれるという循環を生み出しています。また、大きく育つ事業だけではなく、個人の価値観から生まれるその人ならではの取り組み、その地域ならではのユニークなアクションなど、多様な挑戦があることが大事であり、そういう多様さを包括し支えあえるエコシステムを育みたいと思っています。
また、そうしたエコシステムには、多様な人やリソースを巻き込むための仕組みとして、自治体同士が連携してナレッジやノウハウを共有する「ローカルベンチャー協議会」や、大企業やベンチャーのネットワークである「企業×地域共創ラボ」があります。ここに所属する個人はプレイヤーでもあり、リソースを持ち込みエコシステムを広げる仲間でもあります。
ー大企業も関わっているんですね。それはなぜなのですか?
地域でコレクティブに課題解決を実現したり、新しい産業になりえるような事業を育てることを目指しているので、0→1だけではダメで、1→10、10→100をやっていかないといけないんですよね。そうすると、地域側は地域内のリソースだけでは足りないので、外からリソースを集めることが必要になります。
一方の大企業側も、近年は社会価値創造が経営の中核に据えられ、これまでと同じ事業開発では無く、地域の課題解決や生活に根付いた事業を生み出すことが求められています。その両者を結びつけるためのプラットフォームとして、「企業×地域共創ラボ」を一昨年立ち上げて、そこでは両者が本気で、一緒に事業開発を目指す議論をしています。
普通、大企業の人がいきなり地域に行って、キーパーソンと腹を割って話をすることって難しいですよね。
ー確かに。なんかサービスを売りつけられたりしそうで警戒するかもしれませんね。
そうなんです。過去にそうした形で大企業と接触があった地域も多く、通常は信頼関係を構築するまでには相当な時間がかかります。そこで私たちは、まず母体として意欲が高く企業の受入体制が整っている地域のネットワーク(ローカルベンチャー協議会)を基盤として、そこにETIC.と長年連携をしてきた企業さんや、価値観を共有できている企業さんに参画頂き、ベースのコミュニティを作っています。そこに、徐々に新しい企業さんが加わっていっている形ですね。
ーなるほど。価値観を共有できている人たちでまずはコミュニティを作り、徐々に大きくしていっているのですね。共有している価値観とはどういうものがありますか?
非常にたくさんあるのですが。。例えば、会議室で延々議論をするのではなく、現場で議論しようということ。共創ラボの所属企業の皆さんはいろんな話ができる関係性なのですが、地方の現場で一緒に話をすることが多く、都内で会議することはほとんどありません。また、会社や地域等の組織の一員としてだけではなく、自分の関心や思いに紐づけて、自分の言葉で語り、アクションの主体になっていくこと。
また大企業側は得てして「課題解決に寄与してあげる」というスタンスになりがちですが、そうではなく一緒に創る、共創する意識が大事、ということ。あとはもう少し抽象的ですが、クローズドではなくできるだけオープンなスタンスであり、人を巻き込んだり、共創の輪を広げていくということも大切です。
ーその中でETIC.の仕事としてはどういうことをしているのですか?
こうしたコミュニティを運営し、耕し、深めていくことをしています。具体的には、参加している方の関心やリソースを一緒に棚卸しながら、企業・地域の皆さんのアイディアや思いがどうしたら形になっていくのかに伴走しています。個別にヒアリングを行い、関係しそうなキーパーソンとの打ち合わせをセットしたり。
特定のテーマを学ぶ地域フィールドワークを企画して実施したり。またコミュニティの参加企業を増やすための営業や広報・発信を行ったり。出張で全国を飛び回ることも多くありますし、大きなイベントを組成することもあるので、本当に多様な、広範な仕事内容ですね。
ー話だけ聞くとなかなかハードそうですが。。仕事の面白味はどんなところにありますか?
これもまたいっぱいありますが。。自分一人だけじゃ実現できないこと、色んなアイディアも生まれて、そこに色んなリソースが集まってきて、それによって社会って本当に変わっていくんだ、という実感が持てることが最大の面白さですね。
地方というと課題が山積するというネガティブなイメージや、課題を解決する事業というサポートする側になるイメージをする方も多いかもしれませんが、実際にはユニークで多様な取り組みがたくさんあって、地方から生まれる事業や新しい価値観こそが日本全体を面白くしていくし、社会を変えていくと本気で思えます。そういう出会いや、協働はとてもワクワクしますね。
チーム内も、関係する人たちも、みんな本気でそう思ってアクションを起こす人が集まっているので。批評家では無い実践家の集まりであること。常にどうしたら目指すものが実現できるか妥協せずに議論し、アクションを起こし続けられることが面白さです。
ーでは一緒に働くメンバーとしては、どういう人が良いですか?
まずは目指すものに共感してもらえる、そしてそれを実現するために、一緒に成長をしながら仕組みを作っていく意思を持ってもらえる方に参画してほしいです。
まだまだ出来上がっているものではなく、いろんな可能性を出しながらトライアルもして作っていく段階です。そのうえでは多様な視点が必要で、関係者、地域、企業、お互いをリスペクトしながら議論をして作り上げていけたらと思っています。
また、仕組みづくりなので1人で何か成し遂げるというよりは、チームや参加企業、地域、時には外部から必要な力を借り、いろんな人と共創することで力を発揮したい方がいいと思います。
ーでは最後に、ローカルベンチャー推進事業、「企業×地域共創ラボ」の仕事に興味がある人へひとことお願いします!
この仕事はこれまでとは異なるアプローチで、社会のあり方を変えていくことを目指しているので、時間的に長期スパンになります。また関係する人も多いので、自分だけが頑張ってもどうにも動かないこともある。そこをどう働きかけて動かしていくかを考えるプロセスは、大変でもあり、1人では実現できないものを作り上げる面白さでもあります。
また、わかりやすい指標があるわけでもないので、価値を相手にどう伝えるか、社会にどう発信していくかは難しさがありますね。「企業×地域共創ラボ」をどのように広げていけるかは、正に課題の部分です。
地域は課題が多いとされていますが、だからこそ知恵を絞り、多様な人と議論を重ねながら、新しい価値観を生み出していくことができます。そうした積み重ねによって、現在進行形で社会が変わっていく様を見ることができるのは、この仕事の本当に面白いところです。こうしたことに興味のある方は、ぜひ私たちと一緒に、日本中に面白い種をまき、ともに育むエコシステムを創っていきましょう!