1993年に学生団体として始まったNPO法人ETIC.(以下、エティック)は、2023年で30周年を迎えました。この連載では、皆さんと一緒に31年目を踏み出したいと、これまでのエティックを振り返るイベントとして開催された「30周年記念ダイアログ 創造と創発の30年と、未来へのギフト」のエッセンスをお届けしていきます。
初回のテーマは、「次世代リーダー育成とインターンシップ」。前半となる本記事では、エティックが創業期から取り組んできた、長期実践型のインターンシッププログラムに焦点を当てます。
当時、一部の大企業における、採用活動の一環としての短期プログラムのみ普及していたインターンシップ。都心部の創業期のベンチャー企業など、イノベーションが求められる現場と大学生をつなぐ仕組みとして提案したのが、「Entrepreneur Internship Program(EIP)」でした。
1997年〜2015年の19年間で3,000人以上が参加し、数百名の起業家を輩出したEIPは、その後、各地の文脈に合わせながらその地域のコーディネート組織(NPO・企業・大学など)の手によって、全国に広がり、社会に普及していきました。
今回のダイアログでは、創業期からこの取り組みをリードしてきたエティックスタッフ3名に加え、様々なサポートをいただいた佐藤 真久 氏(東京都市大学大学院 環境情報学研究科 教授)、川北 秀人 氏(IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)をゲストに迎え、これまでのプロセスを総括すると同時に、今この時代だからこそのインターンシップのあり方についても対話します。
※記事の内容は2023年12月4日時点のものです。
1997年のインターンシップ推進閣議決定、第3次ベンチャーブームに後押しされ生まれた、長期インターンシッププログラム「EIP」
山内:本日は、大きく2つのパートで振り返りをしていきたいと思っています。パート1では、Entrepreneur Internship Program(以下、EIP)という、1997年にスタートして、プログラムを終えた2015年までに3,000人以上の大学生の方々にご参加いただいた長期実践型インターンシッププログラムについて振り返ります。
エティックは、1993年、起業家を目指している大学生たちによる「学生アントレプレナー連絡会議」という勉強会がその始まりでした。年間およそ50回以上の勉強会を開催していて、本日のゲストの川北さんとは、勉強会に講師としてお越しいただいたのが出会いのきっかけです。
ただ、本日お話しさせていただく伊藤 淳司と私は、「学生アントレプレナー連絡会議」の出身ではなく、海外インターンシップを通じて世界中の若者のリーダーシップを育んでいる「AIESEC(アイセック)」というサークルの出身です。私自身の原体験は、アイセックで仲間たちがインターンで人生を変えていく姿を目の当たりにしていたことにあります。
エティックに関わるようになったのは、1997年、インターンシップを推進することを日本政府として初めて決めたことがきっかけでした。
資料を取り寄せて見てみたのですが、日本型のインターンシップは1〜2週間という短期間で、企業は社会貢献でやるべきだといった内容のことが書かれていて。一方で海外インターンシップでは半年間とかが当たり前だったので、「こんな短期間で人生観は変わるのだろうか?」と、「インターンシップを正しく日本に広めたい」と思ったことが始まりです。
そこから元々知り合いだった宮城に話をしにいってみたら、エティックも学生団体から事業化していきたいというタイミングで、特にインターン事業をしていきたいという話をしていて。
その時点では私も自分で起業したい思いもあったのですが、当時通産省(現・経済産業省)にいらっしゃった、カネボウ・丸善元代表取締役社長の小城 武彦さんがエティックのことを応援くださって、ベンチャー企業におけるインターンシップの可能性の調査研究にご支援いただけることになったんです。
それが大学4年生のときで、「もうこれは前に進むしかない」と川北さんにご相談に行ったのが、私がエティックに参画した経緯です。
同時期に、本日のゲストである、米国の環境分野におけるインターンシップの研究をされていた佐藤真久さんとの出会いもあり、学ばせていただきながら、インターンシップ事業を立ち上げていきました。 アメリカのネットベンチャーの潮流を受けた第3次ベンチャーブームが起こっていた背景もあり、本当に様々なベンチャー企業のもとでの長期実践型インターンシップを実現させていただきました。
19年間で、ベンチャー企業、ソーシャルベンチャー、NPOの創業期の長期実践型インターンに参加者3,000人以上。4%が修了後に学生起業
山内:EIPの具体的な内容は、上記の表にまとめてみました。事業に対して当事者意識を持って自ら仕事をつくり出していくような起業家的経験を積んでほしいという想いがあり、最低でも3ヶ月の設定で最初はスタートして、その後、成果を出したケースとそうでなかったケースを比較したりなどして、最低半年間に延長しました。
参加者、受け入れ企業は90年代後半〜2000年代前半でピークに達し、最初の6年間で1,200名ほどの学生にご参加いただき、インターン経験後に今度は自ら創業した学生たちも約4%生まれました。
山内:具体的な受け入れ先は、例えば今では上場された株式会社MIXIさん、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)さんなど、下図のような企業さんとご一緒させていただきました。
MIXIさんの場合は、笠原社長がお1人で有限会社イー・マーキュリーという名前で進められていた時代、学生たちが3名ほど入って、ともに立ち上げたサービスがSNSのmixi(ミクシィ)だったりします。
また、2004年ごろからは、ベンチャー企業だけでなく、ソーシャルベンチャーやNPOの創業期のインターンも増えていったというのが、一つの流れだったと思っています。
学生が社会に参画する長期実践型インターンという仕組みが、ベンチャー起業やNPOの増加を後押しする
山内:ではここからは、佐藤さんに当時のアメリカの社会状況、インターンシップを取り巻く環境についてお伺いしたいと思います。
佐藤:よろしくお願いします。私は、アメリカのサンフランシスコで環境問題に関する学生の社会参加をテーマに修士研究をしていました。環境問題を解決するために学生たちが様々なNPOや企業に参画していく話を耳にし、それを徹底的に調べてたのが私の修士時代だったんですね。
その研究の中で、1960年代から、ベトナム戦争など世の中がすごく混沌としていく中で、学生がすぐ就職するのではなく、学生という立場を活かしながら社会に関わり続け、その結果、1970年代以降のベンチャー企業やNPO団体の増加を後押ししていたという仕組みを読み解くことができました。
佐藤:また下図のように、ただ増えるだけでなく、夏休みになるとサマーインターンを契機に学生たちがアメリカ中を移動していることもわかってきました。
例えばワシントンD.C.には国連や連邦政府などに関するインターンに学生たちが集い、サンフランシスコやシアトルにはNPOやハイテク企業、ベンチャー等々でのインターンに多くの学生たちが参加するために移動してくることがわかってきました。
このインターンを契機にした学生たちの地域間移動という発想は、また後ほどお話する「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」の中で、地域性やテーマ性を持った人の移動を日本全体でどう動かしていくかという発想とも連動してきているのかなと思っています。
佐藤:それから修士を終え、意気揚々とこれらの研究結果を日本に持って帰った私は、悲しいことに誰も関心を持ってくれない状況に直面しまして。
実際、アメリカと日本ではそうした動きに20年以上の差があったのですが、日本がその当時直面していた社会問題にこの研究結果は役に立つのではと思っていたので、どうにか共有できる人たちはいないか探して、宮城と山内と出会いました。
エティックの事務所を訪ね、日本もこれから学生が社会に参加する時代が来るのだと、その際にインターンシップが良い手段になり得るのだという話をしたことを覚えています。
インターンシップ成功の鍵「コーディネータによる事前の課題設計」を、職人技から仕組みにしていくまで
川北:当時の背景にもう少しフォーカスすると、1970〜80年代ぐらいまで、学生の動きはベンチャー企業の創業までいってなかったんです。何か新しいことに挑戦したいという動きがあったとき、社会的な動きというよりは、一過性のイベントが主流で、組織や事業体にはなっていなかった。
そうした状況を見ていて、責任が重いバイトをすることも悪くないのですが、それは大人の肩代わりをしているだけなので、在学中に社会課題解決にチャレンジできるスキームが生まれることが重要だと思っていました。
その視点からみると、長期実践型インターンシップにとって大切なことは、期間が長いことや実践することではなくて、タスクが明確であること。それも、会社に今いる大人たちの力では解決できないことを、若者たちの力を借りてねじ開けていくことがポイントなんです。
その結果、経験や技能が人の力なのではなくて、周囲の力をどう引き出していくか、課題をどう設定するかがポイントなのだと発見できます。これがうまくいけば、社風が変わります。
つまり、人を送り込むこと自体ではなく、事前の課題設計が大事で、初代コーディネーター(※エティックスタッフで、企業と学生のつなぎ役)の人たちが、「コーディネートとは何なのか」を定義することが一番の難所だったのだろうなと思います。
その視点から、エティックがコーディネートを個人的な職人技からどう仕組み化していったか、この機会にもう少し踏み込んで話してみてはどうでしょう。
伊藤:最初は、送り込んだ学生が3日後に辞めるみたいなところからスタートしましたね。そうした失敗と、一方で仕組みがなくても成果を出してくれた学生や企業さんを分析するところから始まりました。
山内:「インターンシップとは何か」を、どう定義するかということでもあったなと思っています。伊藤が言う通り、本当に試行錯誤の連続で、例えば事前課題みたいな制度を導入してみたり、学生だからといってお客様扱いや育てようとするのではなく、本気で真剣勝負でぶつかっていける環境をどうセットアップできるか考えたり、高い期待値を経営者側からどう引き出せるか、インターンといっても正社員として配属されるので、その責任感をどれだけ学生たちに伝えていけるか、そういったことを考え続けてきました。
また、佐藤さんに教わったやり方で、下図のようにモチベーションを見える化しながら、本人にも振り返ってもらいながら、学生たちのモニタリングをしていきました。
田中:私は2001年にEIPでインターンに参加したのですが、担当コーディネーターだった竹内さんのコーディネートですごく印象に残っているのが、どんどんチャンスをくださるし、いつも楽しそうに私の話を聞いてくださったことで。
すごくポジティブに、「自分の心のままに進んだらいいんだよ」と肯定してくださる人の存在や、そういう関係性自体、大学生当時の私にとって初めてのことだったんです。
また、「このままでいいんだっけ?」とか、「チームを作ったら次のステージに行けるんじゃない?」といった問いかけや示唆も必要なタイミングでいただけて、コーチングに近しいスタイルだったと思うのですが、「働くってこんなに楽しいんだ!」と思えるようになりました。
私にとってインターンは「社会でちゃんと役に立てるんだ」「学生のアイディアでも受け止めてもらって、次につなげていけるんだ」といった手応えを感じることで仕事のイメージがガラリと変わるような経験だったので、本当に竹内さんに感謝しています。
山内:ありがとうございます。コーディネーターとの関係性がすごく濃くなるというのも、EIPの一つの特徴だったかもしれませんね。
>後編では、EIPでの経験から生まれたインターンシップ事業「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」について振り返ります。
イラスト(登壇者・記事中) : 藤田ハルノ
エティックが行ってきた長期実践型インターンシップについての書籍『長期実践型インターンシップ入門』が2024年3月にミネルヴァ書房から出版されました。
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>学生も成長し、企業の変革も加速するインターンシップの設計とは?「長期実践型インターンシップ入門」出版記念イベントレポート【1】
「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」は今年20周年を迎えました。
11月9日には PiOPARK (東京都大田区)で「地域コーディネーターサミット2024」が開催されます。詳細はこちらをご覧ください。