1993年に学生団体として始まったNPO法人ETIC.(以下、エティック)は、2023年で30周年を迎えました。この連載では、皆さんと一緒に31年目を踏み出したいと、これまでのエティックを振り返るイベントとして開催された「30周年記念ダイアログ 創造と創発の30年と、未来へのギフト」のエッセンスをお届けしていきます。
今回のテーマは、「やってみたい」を徹底的に応援するために生まれた、2010年代の3つの取り組みについて。
>>前編では、次世代イノベーターのための私塾「MAKERS UNIVERSITY」、東京発・400文字から世界を変えるスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」について振り返りました。
後編では、「意志ある挑戦が溢れる社会を創る」をミッションに、立場や組織の垣根を超えて繋がり、一人ひとりの妄想を形にしていくことを目指すバーチャルカンパニー「and Beyond カンパニー」について振り返ります。
※記事の内容は2023年12月6日時点のものです。
「意志ある挑戦があふれる社会を創る」。自律分散型の運営で、数多くのプロジェクトが生まれ続けている「andBeyondカンパニー」
小泉:本日はよろしくお願いします。私は学生だった2003年、親に「学校だけ行ってるのはもったいないから」と連れられていったイベントでエティック創業者の宮城と名刺を交換して、メルマガが届くようになり、気づけばスタッフとなりました。
現在は、2018年に発足した「andBeyondカンパニー」、私たちは頭文字をとって「aBC」と呼んでいますが、この少し変わった、16社が共同運営のような形をとって協賛金と一部の委託金で運営をしているバーチャルカンパニーの担当として、「こうやって社会を変えていくエネルギーって集まっていくんだな」ということを体感する日々を過ごしています。
「aBC」のミッションは、「意志ある挑戦があふれる社会を創る」。始まりは、「aBC」パートナー企業であるロート製薬山田会長からの、「日本の若者のチャレンジを阻害しているのは、上場企業である自分たち自身なのではないか」という一言でした。
そこから、利益の追求を前提とした組織運営のなかでも失敗できる環境を、一社ではなく、まるで“出島”のように人々が共有できる場としてつくってみようと2016年に生まれたのが、「aBC」の前身となる「Social Impact for 2020 and Beyond イニシアティブ」です。
当時エティックは、20年以上社会課題に取り組む起業家や地域リーダーたちの育成に取り組んできましたが、手ごたえは感じながらも、突出したリーダーの活動だけではなく、もっと企業や自治体など様々なリソースを持ち寄り、面で周りを巻き込むようなムーブメントを起こさないと日本は変わらない、という思いを持っていました。
また、2020年に開催されたオリンピック、パラリンピックというタイミングは、世界から日本に注目が集まるときでもあり、当時さまざまな議論がありましたが、建造物やシステムではなく、民間から勝手に「ヒューマン・レガシー」を提案していこうと考えました。その際、エティックが中心になるのではなく、関わる全員で運営する自律分散的な体制を選択しました。
運営には、内閣府や企業から出向で関わってくださっている方もいらっしゃって、多様な企業文化を取り入れながら進めています。出向経験者からは「予想以上の成長ができた」という声も届いていて、最初戸惑いはあるかと思うのですが、面白味を感じながら色んな方に参画いただけている手応えがあります。
さて、「aBC」の具体的な活動内容をいくつか絞ってご紹介しますと、一つ目は、「挑戦と応援の文化をつくる」ことをすごく大事にしているので、組織・立場・世代を越えて誰もが参加できるゆるやかなピッチ&ブレスト「Beyond(ビヨンド)ミーティング」を毎月開催しています。
新しい価値創造や社会・地域課題に挑戦するアジェンダオーナーが数名登壇し、ブレスト会議を通じて繋がり合うのですが、これまでに100回以上開催して、登壇者は550名近く、全体の参加人数は5000名を超えました。
現在はパートナー企業それぞれの社内でも開催していて、例えば一つの部署で「これがやりたい!」と新しい企画の種が生まれたときに、部署を横断する機会として、全社に開かれる場として活用いただいています。
また二つ目は、「社会課題解決中マップ」というサイトをつくり、エティックがこれまで出会ってきた起業家の挑戦を、「未来への意志ある挑戦者・起業家のアクションデータベース」としてまとめました。このサイトは日常生活に身近なアクションがまとまっていると注目され、学校の教材として書籍化されました。第1弾は全国15,000の小学校に配布し、好評により第2弾は全国35,000の中・高校に配布されることになりました。
三つ目は、社長を交換して社内文化を刷新する「たすき掛けプロジェクト」を、マネックスグループ株式会社さんとセイノーホールディングス株式会社さんで行いました。経営トップと社員という関係性を排除して、例えば一年目の社員がアイデアや新しい取り組み、新規事業をプレゼンし、もう一方の他社企業の経営トップから助言と応援をもらうことで、主体性と創造性を発揮した挑戦を後押ししていく企画です。
四つ目は、ヤマハ発動機株式会社の白石章二さんの提案で、森林を空間資源として捉えた新たなサービス・アクティビティの開発と運用によって、新たな経済を森林保全に回していくことを狙いとした構想「森あそびラボ(現「SATOYAMAツーリズム協議会」)」が生まれました。白石さんは、構想を一度「aBC」の中でプロジェクトにすることで仲間を集め、その後本格スタートしていくという場の活用の仕方をしてくださっていました。
五つ目は、最近始まった日本航空株式会社さん、株式会雨風太陽さんらが中心となって、「都市と地方をごちゃ混ぜにして、新たな人流を生み、日本に活力を注ぐこと」をビジョンに掲げた、多拠点で暮らす社会のあり方を広げていくための運動「Japan Vitalization Platform」です。このように企業同士が連携したプロジェクトの組成が、「aBC」では度々生まれるようになっていきました。
六つ目は、「Beyonders」という取り組み。ロート製薬さんなど一部の企業では解禁されている副業ですが、一般的な企業ではなかなか制度がまだ追いつかないということで、社会課題解決に取り組む「名もなき挑戦」に対して友人の起業を手伝うように組織を越えて仲間になれる約3か月のプロジェクト参画の仕組みです。大企業の中に眠っている熱量やリソースを、これから始まっていくプロジェクトの推進に活かしていく仕組みになっています。
最後に、この5年間、自律分散型の運営で本当に多くのプロジェクトが生まれ推進されるなか、全体の進化を体感するために始めたのが、年に一度の祭典「Beyondカンファレンス」です。誰でも意志ある挑戦をピッチでき、挑戦と応援を体感できる場となっています。
応援し合う文化、異質なものとの出会いから、イノベーションや挑戦が生まれる
番野:2023年のカンファレンスに参加したのですが、京都駅からバスで1時間半ぐらいの山奥が会場で、それでも東京の企業から150人ぐらい集まって、企業の人たちが受付とかをしながらでワイワイ楽しそうにやっていたのが印象に残っていて。
宿泊所も、大企業の方たちなのに青少年の家みたいな場所で、8人部屋(笑)。それでも楽しそうに、みんなのびのびと自分の言葉で喋っているし、自社だけでなくいろんな会社の人と出会う楽しさ、実際に一緒にいろんな仕掛けをやってみようと動けることが価値なのだろうと感じました。
小泉:そうなんです。今、実は宇宙を意味する「コスモ」と名付けたミーティング形式をつくることを模索していて、「コスモ」が集まれば「カオス」になるよねと話しているんです。
一体これは何なのかというと、同質性の高さは安定をもたらすので大事なときもあると思うんですけれど、イノベーションが生まれなかったり、相互作用を育む場所自体をつくっていけないんじゃないかと思っていて、異質性のあるもの同士の組み合わせを意図的につくろうとしているんです。そうした文化づくりにも、みんな楽しそうに参加する雰囲気が生まれてきているなと感じます。
また、「たすき掛けプロジェクト」をやった際、ピッチする人に変化がもたらされるかと思っていたら、見ている側の社員の方たちに変化が生まれて。
毎回60名〜100名ほどの社員の方が参加されていたのですが、例えば、マネックス1年目の社員さんのプランがすごく発想力に富んでいて、それを聞いていたセイノー社員さんが、「そんな発想を持ったことがなかった。自分も何か手を挙げていいんだということ自体に気づいた」といったことを言ってくれて。
さらにその方は「まずは海外研修プログラムの研修する側に手を挙げてみました」とも共有してくださって、社員の新しい挑戦につながった事例がありました。そうした、プロジェクトを始めたときには意図していなかったような、想像以上の変化が生まれはじめています。
エティックは、スタッフの「熱」が起点となった組織
小泉:「aBC」は「応援の文化をつくる」ことを掲げていて、基本的に来た人全員を応援する場となっています。誰でもピッチができ、誰でも応援されるという体感を人々につくっていくことは、「意志ある挑戦があふれる社会を創る」鍵になる大事な部分だと思っています。
ただ、当然プロジェクトのフェーズが変わってきたときに、何にでも「いいじゃん!」と言うのが本当に応援かというと当然そんなことはないので、その人が描きたい未来や本当にやりたいことを問うこと、大切にすることをベースにしながら応援していく文化をつくっていきたいです。
番野:今のエティックのユニークなところは、組織の方針として支援対象を絞ろうという動きがないことかもしれないですね。今回振り返った3つのプログラムも、経営者の方針によっては1本に絞ることになってもおかしくないところを、共存している。
それぞれのスタッフが熱を持つ対象に熱のあることをやる組織で、それが間口広く万人を受け入れるプログラムを1個つくるよりもエディックらしいのかもしれないと改めて感じました。
イラスト(登壇者・記事中) : 藤田ハルノ
エティックが行ってきた長期実践型インターンシップについての書籍『長期実践型インターンシップ入門』が2024年3月にミネルヴァ書房から出版されました。
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