2023年度アニュアルレポートに掲載された、共創パートナーの声をご紹介いたします。
※本インタビューは2025年3月に実施しました

近年、ソーシャルセクターへの資金助成の機会が増え、資金提供者の多様化も進んでいます。資金提供者の関わり方も進化しており、例えば企業では、資金提供にとどまらず、社員のエンゲージメントや意識変革につなげる動きが強まっています。
NPOやソーシャルビジネスだけでは社会は変えられません。企業も主体的に関与し、ともに変革を担う仕組みづくりが、今後ますます重要になります。今回は、資金提供を通じてNPOとの共創を目指す事例として、サントリーホールディングスをご紹介します。
サントリーホールディングスが取り組む「次世代エンパワメント活動“君は未知数”」。活動への思いや目指していることについて、一木典子さん(CSR推進部長)にお話を伺いました。

一木 典子(いちぎ のりこ)さん
サントリーホールディングス株式会社 CSR推進部長
1994年JR 東日本に入社。東京駅周辺開発や震災後の東北エリアの活性化、子会社の経営などを経て、2022年7月、サントリーホールディングス(株)に入社。同社の「利益三分主義」に基づくCSR活動を担当し、 「次世代エンパワメント活動“君は未知数” 」を企画・立ち上げ。プライベートでは、ダイバーシティ&インクルージョンや自然教育に係る非営利組織の活動にも長く関与している。
──「次世代エンパワメント活動“君は未知数”」は10代の子どもや若者を支援する事業・活動ですが、どのような思いが込められているのでしょうか?
子どもに関わる課題も時代とともに変化しています。「子どもの貧困」という言葉は2000年代から聞かれるようになり、2010年半ばで一定の認知が広がりました。そしてここ数年は、不登校の増加など、別の課題も広がっています。
10代の子どもや若者たちを取り巻く困難の変化を捉えた対応が求められていますが、支援は、未だ手薄だと言われています。行政だけで迅速に対応しきれない領域に、NPO法人等(以下「NPO」)や企業等、民間の力が必要だと感じます。
──コレクティブインパクトの創出を目指し、多様なパートナーとの共創を志向されています。そのような方向性に至った経緯や、感じている問題意識をお聞かせください。
困難に直面している子ども・若者の分野は、支援側に高度なスキルとマインド、そして長期的な関わりが求められます。そのため、この分野に先駆的・継続的に取り組まれているNPOと協働したいと考え、まずは十数団体へのヒアリングからはじめました。NPOがこれまでに重ねてきた試行錯誤、経験に学ぶことが不可欠だと思ったからです。そうしてヒアリングをする中で、NPOが抱える課題や、つらさを感じている部分が見えてきました。
組織経営という意味では、NPOもスタートアップと変わらず、組織の発展段階に応じた基盤強化への投資が必要です。にもかかわらず、NPOが得られる資金は「受益者に向けた直接的な活動」に充当することが期待されてしまう。組織を運営し、発展させるための人材育成や、事業のインパクトを高めるためのコミュニケーションなどの支出を批判する声も目にしました。しかし、それだけでは、組織の持続性や支援の量・質の拡大は難しい。
また、企業との協働を志向しているNPOが増えているものの、その関係性にも課題を感じました。企業は資金の提供をするものの、各社が個別に実施したい社会貢献活動をNPOが企画運営するものが多く、スタートアップ企業への出資のように、NPOが描くビジョンや戦略の実現、そのためのNPOの発展成長を目指した協働は少ないように思ったのです。逆にそのような協働が生まれれば、よりインパクトを創出できるとも考えました。
──社会課題解決の担い手として、サントリー社員の皆さんの主体性を強く感じました。なぜそのような姿勢で活動できているのでしょうか?
企業としてのカルチャーだと思います。第一次世界大戦後の恐慌下、創業者鳥井信治郎は、「困っている人をだまってみてられまっかいな」と言って、生活困窮者に無料の診療と施薬を行う診療院を開いたり、奨学金の提供を匿名で行うなど、社会福祉活動を熱心に行っていました。
その精神は、 「利益三分主義」(事業活動で得たものは、自社への再投資にとどまらず、お客様へのサービス、社会に還元すること)という価値観として、社内に浸透しています。単にお金を出すだけではなく、当事者意識をもって現場に学び、「やってみなはれ」の精神でNPOとともに考え動くことを通して、真に有益な活動にしていきたいとの思いがあります。
──「次世代エンパワメント活動“君は未知数”」の目指していることを教えてください。
子どもたちの可能性は未知数。その可能性を、生まれ育つ環境や状態に関わらず、すべての子どもたちがひらくことのできる社会を実現する。それが私たちの想いです。
そのために、困難に直面している10代の子どもや若者に向け、例えば、自立を急かさず、押し付けず、まずはおもしろいことに出会い、夢中になっていいと思える環境をつくったり、仲間とつながって助け合っていいと思える関係性を築いたり。
さらに支援の担い手であるNPOやそこで働く方々が、社会からきちんと評価され、成長するために必要なリソースが地域や社会から供給される。そんな未来を目指し、協働先や助成先のNPOとともに、関わる人々の幸せ(ウェルビーイング)や地域のあり方をより良くしていけたらと思っています。

子どもたちの可能性は未知数。生まれ育つ環境や状態にかかわらず、その可能性を全ての子どもたちがひらくことができる社会を実現する。
それが私たちの想いです。思春期世代を主な対象として、この分野で先駆的・継続的に取り組んできたNPOなどと協働しながら、子どもたちが未知や他者と出会う機会をつくります。
【私たちの活動】
子どもたちが未知と出会う機会をつくる
子どもたちに出会う・関わる大人を増やす
2023年度のアニュアルレポートでは、他にもさまざまな活動をご紹介しています。ぜひご覧ください。