社員インタビュー

「稼ぐ」から「地域とともに生き残る」へ。ローカルベンチャー創出事業の10年で見えた、地方創生の“OS”の書き換え。ETIC.コーディネーターインタビュー──伊藤いずみ

NPO法人ETIC.(エティック)が運営する「ローカルベンチャーラボ(LVL)」は、地域資源を活用した新事業創出を目指す起業家や企業内起業家のための半年間のプログラムです。スタートから10年を迎え、全国から400名以上が参加、44都道府県で160以上の自治体に修了生を輩出してきました。

地域でのビジネスは今、どのように変化しているのか。そして、企業が地域と関わる際、どのような視点が必要なのか。
ETIC.の山内幸治が、LVL事務局として長年現場を見つめてきた伊藤いずみに、これまでの10年の変遷と、これからの展望について聞きました。

「1つの事業」から「地域の仕組み」へ。現場で見えた限界と可能性

山内幸治(以下、山内):
今日は10年取り組んできたローカルベンチャー事業について、その中心を担ってきてくれたいずみさんに、今後の展望をお聞きしたいと思っています。 まずは簡単に、いずみさんがどんな経緯でETIC.にたどり着いたのか、その背景から聞かせてもらえますか。

伊藤いずみ(以下、伊藤):
学生のころから社会貢献・国際協力などには関心があり、大学時代はちょうど「社会起業家」という言葉が注目されていた頃で、NGOや専門家になる以外の社会変革にかかわる選択肢が増えていた世代だったと思っています。

学生時代は海外の学生と社会課題について議論したり事業を作る団体で活動しており、いずれは社会課題の領域に関わりたいと思っていました。ただ、いきなり飛び込むのではなく、まずは社会人として世の中の仕組みや物事の動かし方を学ぼうと思い、一般企業に就職しました。

3年弱ほど働き、業務改善コンサルや海外でのBPOセンターの立ち上げなどに関わっていたのですが、都市の型を地方に持ち込んだり、コンサル的な関りになる仕事も多く「もっと現場に入って地域文化や文脈を汲み取りながら事業を動かしていくことが大事なのではないか」と思うようになったんです。

そんなタイミングでたまたまETIC.の「右腕プログラム(震災復興リーダー支援プロジェクト)」の説明会に参加し、直観的に「行ってしまえ!」と岩手県大槌町に入ったのが、最初のきっかけです。

山内:
東北の復興に関わってもらったのが最初の接点でしたね。実際に現場に入ってみて、どうでしたか?

伊藤:
大槌町では1年間の右腕期間を経て、その後も1年ほど残って個人事業で活動しました。大槌は被害が大きかった地域で、当時は緊急期を過ぎ外部支援の人たちが引き上げはじめるも、長い時間がかかる復興への道を歩み始めたばかりの、非常に難しい状況がありました。

その中で、自分なりに地域の方々と一緒に実現したい地域像を描き、そこに向けた事業創出・産業づくりに取り組みました。地方での事業が生み出す可能性は感じていましたが、同時に自分の力不足と「1つの事業だけでできることには限りがある」という限界も感じ始めたんです。

地域が本当に持続的になっていくには、事業を支える仕組みづくりや個々の事業を面にしていく動きが必要ではないか。そういったアプローチがしたいと思い、ETIC.に参画しました。それが10年弱前のことです。

山内:
現場での実感が原点にあるんですね。ETIC.に来て約10年、ローカルベンチャーを支える側、応援する側に関わる中で、いずみさん自身の視点が変わったり、手応えを感じ始めたタイミングはありましたか? 

伊藤:
劇的に変わった瞬間があるというよりは、徐々に変化していった感覚です。

最初は「プレイヤーとなる起業家を支える」「彼らの事業を成長させる」という点に強く関心があり、そこにより直線的に寄与することを目指していました。ローカルベンチャーラボのプログラムも、当初は半年間のプログラムとして参加者や彼らの事業変化に視点を強くもって作ってきました。

変化を感じたのは、ローカルベンチャーラボの活動を通じて生まれた機会に企業の方々が参画してくれるようになった3〜5年目頃からです。プログラムに参加したプレイヤーやOBOGたちのコミュニティができ、彼らの事業フェーズも変わっていく中で、直接の事業伴走だけではない関りしろや連携の機会も増えてきて、そこに様々な立ち位置の方を巻き込んでいくなかで、議論の質が変わってきました。

一人の起業家の事業で完結するのではなく、「共創」や「つながり」が広がって面になり、それによって地域の課題が解決され、インパクトが広がっていく。

またその過程で企業や行政の方々がどんな背景や思いを持っていて、何をどう共有して一緒に事業を作れるのかということの解像度も上がり、「個人の事業支援」を超えた地域のエコシステムが描けるようになってきたと感じています。

ローカルベンチャーラボ(LVL):全国各地から参加者が集まる、地域に特化した半年間の起業家育成・事業構想支援を行う半年間のアクセラレーションプログラム。2017年5月より第1期が開始し、これまで9期で、全国から延べ401名が参加。

山内:
起業家個人だけではできないことが、企業や行政と組むことで可能になる事例も見てきたわけですね。

伊藤:
そうですね。例えば日本郵便さんとの連携もそれを実感した1つの事例です。起業家個人では持てない全国的なインフラや拠点、信頼の資本を企業が持っていたり、物事を面で広げていく思考性があったりする。そこと組むことで全く違う展開が生まれます。

また、ラボ生自身の成長過程からも、最初は個人でやっていたものがチームになり、やがて自治体と組めるようになり、さらに企業と組んでインパクトを出していく。描くビジョンも変化し影響を生む領域も広がっていく。その過程をまじかで見てきている中でも、一緒にできることが増えました。

「稼ぐ」から「地域とともに生き残る」へ。ローカルベンチャーの戦略の変化

山内:
この10年で地域で起業するということが、だいぶ選択肢として広がってきたように思うのですが、「ローカルベンチャーの定義」や「求められる資質」、集う人たちの雰囲気に変化はありますか?

伊藤:
明らかに変わってきたと感じています。 10年前、LVLが始まった当初の地域での事業創出は、いわゆる「ベンチャー」らしい事業を地域でつくる、という認識が強かったと思います。「地域資源を使って、いかに良いサービスを作り、稼ぐか」。一つの成功モデルを作ること、売り上げをあげて外貨(地域外からのお金)を稼ぐこと、他でも展開できるモデルを目指す事業が評価されることが多かったと思います。

それも地域で経済を担うためには大事ですが、それは狭義のローカルベンチャーだと思います。今はそれだけでは足りず、もっと担う領域も多様になり「コミュニティの一員として事業を作る・地域も事業もどちらも持続するために役割を担う」という感覚が強くなっていると感じます。
「自分の事業だけが成功しても、地域自体が続かなければ意味がない」というスタンスがベースにあるのだと。

山内:
その背景には何があるんでしょうか。

伊藤:
10年前に比べて地域の状況がより厳しくなっていることがあると思います。例えば「ものづくり」をするにしても、その材料はいつまで手に入るのか。一次産業の担い手は10年後もいるのか。暮らしや産業のベースにある自然環境はいつまで残るのか。

しかも課題はどんどん複雑化し、1つの課題にアプローチしても、また隣で新たな課題が生まれてくる。地域は現場や暮らしが近いですから、足元の土台が崩れかけていることを体感しているのではないでしょうか。特に若い世代はその感覚と当事者意識が強いなということを非常に感じます。

だからこそ、単に「いいものを発掘して付加価値をつけて売る」「眠っていた資源を使って新しいビジネスを作る」ではなく、そこで「誰と共に事業を作るか」「地域のインフラやコミュニティをどう維持するか」という、地域やコミュニティの生存戦略までも描こうとするメンバーが増えています。

山内:
自身の事業だけでなく、それを取り巻く環境にも働きかけるようなことだと理解したのですが、それは「起業の難しさ」が増しているようにも聞こえますが、どうでしょう 。

伊藤:
事業の難易度は上がっています。一方で、地域で事業を作るための「選択肢」は増えています。資金調達や組織の選択肢も増え、これまでの「サービスを売って対価を得る」モデルだけでなく、寄付の活用やDAO(分散型自律組織)的なアプローチ、社会インパクト支援など、お金の回り方のモデルも多様化しています。仲間集めもいろんなやり方ができます。

その中で、成功の形を一つにわかりやすく定義してそこを目指すのではなく、生まれてくる状況に適応し「プロセス自体を設計し続けること」や「仲間を集め広めること」に重きを置く。成功の定義が、単一のゴールから、多様なプロセス(関係性)へとシフトしているのを感じます 。

また、簡単な道のりではないですが、多様な価値観を発露できるし、新しい地域や社会像を生み出していくOSを転換していくような挑戦を手触り感あるところからできるともいえる。ワクワクもできる道のりでもあるんだな、ということをラボ生を見ていて私も体感しています。

山内:
最近のラボ生で、象徴的だなと思う事例はありますか?

伊藤:
たくさんいますが(笑)、例えば京都・丹後地域の集落で活動しているメンバーがいます。彼らは十数世帯の小さな山間の限界集落で築100年の古民家をリノベーションしてサウナ事業を始めました。(取材記事はこちら

一見、流行りのサウナ事業に聞こえるかもしれませんが、彼らはサウナを起点にしながらも、集落の価値や文化、自然環境を丸ごと活かして再デザインしながら、心身ともに健やかになって帰っていく事業づくりを目指していて、地域の方と関係性を紡ぎながら事業を作っています。

面白いのは、外部からの利用者は1回2万円以上の貸切料金なのですが、週に一度、夕方だけ地域の人に500円で開放しているんです。すると、サウナなんて入ったことのなかったおじいちゃんたちが入りに来て、みんなでサウナに入り、目の前の川で涼んでいる。

ビジネスとして外貨を稼ぎながら、同時にそこを「地域の居場所(インフラ)」にしているんです。高齢化が進む集落で、サウナが多様な人が交わる拠点になっている 。 ビジネスか、福祉かと分けるのではなく、その両方を高度に混ぜ合わせる。こうしたしなやかなモデルこそが、これからのローカルベンチャーの1つの「勝ち筋」になっていくのだと思います。

山内:
一棟貸しのサウナ事業だけで食べていけるのか心配になりますが、どうなんでしょう?

伊藤:
地域の価値を再定義したブランデングも上手だし、いろんな事業も掛け合わせてポートフォリオを組みながら回しています。集落の価値を活かした他の事業展開も広げようとしていますし、集落にあるキャンプ場で全国からテントサウナを集めたお祭り・フェスを企画したりと、企画力やファシリテーション力を活かした事業も展開しています。個人の価値観や強みなどパーソナルなところが反映される事業の複合的な展開もローカルらしいですよね。

山内:
みんな本当に創意工夫していますよね。参加者の属性も多様化していますよね?

伊藤:
そうですね。医師、元テレビ局ディレクター、元自治体職員、1次産業従事者や家業の後継ぎなど、専門性もバックグラウンドも本当に幅広くなっています。
年齢層も、今年は20代が約半数、30代まで含めると9割を超えます。U-35枠を設けていることもありますが、非常にパワフルな若手が増えている印象です。

企業が地域と関わる意義。「翻訳者」としてのラボの役割

山内:
来年度は「アドバンスドコース」も企画しているとのことだし、生協(コープ)さんとの連携でのローカルベンチャーラボの生協版もスタートします。海外財団からの支援など、様々な企業や財団との連携が広がっていますが、企業側が「ラボ」に期待している背景には何があると思いますか?

伊藤:
一つはこの10年間で、全国の市町村に、多様なテーマで地域づくりや地域での事業創出に取り組む仲間が広がり、思いあるプレイヤーとのネットワークがあること。そして彼らとのつなぎ役を私たちが果たすだけではなく、地域の各現場にも「仲人(なこうど)」となるハブ人材がいることだと思います。

ラボの修了生はもちろん、メンターとして関わってくださる方々も地域の第一線で挑戦し続ける実践者であり、思いを共有でき、お互いを活かしあう心強い仲間としての関係性があります。

このような関係性やネットワーク、蓄積してきた知見から、地域の実情やリアリティを持ち、実効性のある伴走やネットワークの広げ方ができるという「資産」に、企業の方々も関心を持ってくださっているのだと思います。

山内:
地域の「リアル」と企業の「リソース」をつなぐ翻訳機能ということですね。

伊藤:
そうです。個人の起業家が持つ想いと企業側の想いを引き出しながら、共通言語を持って翻訳をして関係性を構築し、そこにそれぞれの持つソーシャルキャピタル(社会関係資本)を紐づけていく。

地方銀行などでも事業支援は行われていますが、どうしても「事業をどう伸ばすか」という数字の話になりがちです。一方でラボは、その人の実現したい地域や未来、想いと紐づけながら事業を作っていく。

地方では経済合理性が働かない領域ので事業や、取り残されてきた領域に向かい合う事業が圧倒的に多いですから、実現したい未来を自分事として語り、そこに共感を生みリソースを集めることが事業を動かしていく大事なプロセスになります。そうすると、自分だけでは手が届かなかった領域まで届いたりする。

企業の方々自身も、そのプロセスを踏む中で新たな価値観に触れたり、自社のリソースの新しい活かし方に気づいたりされています。

山内:
なるほど。ラボが大切にしてきた「個人の想いを引き出す」という文化を共有した仲間たちが全国に広がり、そうした人たちが「翻訳者」として広がってきているということが、ラボがこの10年で積み重ねてきた大切な資産なのですね

「関係性」という資産をどう循環させるか。これからの挑戦

山内:
地域での事業づくりがより高度に、複合的になっている中で、我々事務局側が取り組むべきことは何だと考えていますか?

伊藤:
ラボには、10年間で蓄積された「人」「ナレッジ」「企業や外部機関との出会い」という膨大な資産があります。これまではそれが「溜まっている」状態でしたが、これからはそれを「循環(フロー)」させていくことが重要だと思っています。

具体的には、一つは「コーディネーションの強化」です。事務局やETICメンバーのキャパや視点だけではできることに限りがあります。メンターやOB・OGを含め、ハブ的に動いてもらえる人・仲間を増やし、多様な視点からマッチングや連携が生み出されていくことを目指しています。これは一定広がってきているし、来期はアドバンスドコースで、各領域でハブになっていくローカルベンチャーを育んでいきたいと思っています。

もう一つは「情報の共有と発信方法のアップデート」です。これまで、個人のストーリーや生み出された事例など「整った情報」は積極的に発信してきています。ただ、より各メンバーが自らナレッジを活用できる、現場で活きる情報にアクセスできるようにするために、現在進行形の悩み、失敗経験も含めて学んだことや考えていること、日常の気づきや知恵などを、緩やかに、動的な状態で共有できる仕組みが必要だという課題感があります。

OBOGも含めたプロジェクト共有WEBなども作ったこともあるのですが、動く状況にするのが難しく、試行錯誤しています。その一環の挑戦として、実は最近ポッドキャスト(ラジオ)を始めました。

山内:
え、もう始めてるの?

伊藤:
はい。コーディネーターが聞き手になり「この人の話を聞きたい」という人を挙げて、話を聞いて編集して配信しています。
試行錯誤していることや、失敗経験などを事業の話だけではなく、その人の地域での暮らしやキャリアなども含めて話を聞いています。

山内:
それは面白いですね。僕もネイチャーポジティブの文脈でいろいろな話を聞きますが、現場の人の一次情報は本当に宝の山です。でも、それをメディアとして成立させるのは難しい部分もありますが、クローズドなコミュニティだからこそ話せる本音も含めて、知見を循環させる試みは非常に価値があると思います。

伊藤:
そうなんです。まだまだ工夫の余地はありますし、もっと動的に活用できるナレッジにしたいです。

ラボなら信頼をベースにしたセミクローズドな設計もできるし、いまならAIを活用したら、目指したいものに近づける気もして。蓄積された音声データや記事データなども活かしながら「こういう事例はない?」「こういう悩みだと誰に相談したらいい?」と聞かれたら答えが返ってくるようなツールを作れたらいいなという野望も持っています。

私たちだけに情報がたまるのではなく「循環するナレッジ」にしたい。リソースをできるだけ解放し、エコシステムを一緒に作るメンバーが必要なものを活かせるところを目指したいです。

山内:
ありがとうございます。10年の蓄積を経て、ラボが単なる「起業支援プログラム」から、地域を超えた「共創のエコシステム」へと進化していることがよく分かりました。

企業の方々にとっても、単なるスポンサーとしてではなく、自社のリソースを活かして地域の未来を共に創るパートナーとして関わっていただける余地が、これまで以上に広がっていると感じます。

まとめ:企業担当者の皆様へ

ローカルベンチャーラボは、地域の現場で挑戦する369名のアルムナイ、全国のメンター、そして多様なパートナー企業とのネットワークを有しています。

「地域貢献」や「CSR」の枠を超え、自社のリソースやインフラを地域のリアルな課題解決に接続し、新たな事業価値やイノベーションを創出したいとお考えの企業の皆様。ぜひ、このエコシステムに飛び込み、共に次世代のローカルベンチャーを育てていきませんか?

お問い合わせをお待ちしております。