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SDGsの危機的状況をどう乗り越えるか。モヤモヤ(ネガティブ・ケイパビリティ)を共有できる仲間の存在が社会を支え、未来をつくる。――NPO法人ETIC.創業理事 佐藤真久さんからソーシャルセクターの皆さんへのメッセージ

ETIC.は2019年から7年間にわたり、宣伝会議発行の書籍『「未来の授業」シリーズ』の編集協力をしてきました。

『「未来の授業」シリーズ』は、小学生から大人まですべての人が楽しみながらSDGsについて学べる書籍で、毎年発行と同時に全国の小中高校(約35,000校)に配本されています。

しかし、SDGsは2030年の達成目標を前に厳しい現状にあります。2023年の国連SDGsサミットで採択された宣言は「SDGs達成は危機的状況にある」とし、「大半の目標の進展があまりに遅すぎるか、もしくは2015年の基準より後退している」と危機感が示されました。新型コロナウイルス、各地で起こる戦争や紛争、飢餓。また、SDGsそのものに否定的なリーダーの存在など、多くの障壁があるように思われます。

帝国データバンクが実施した企業へのSDGs意識調査では2025年、「SDGsに積極的」は53.3%と、初の前年比低下となりました。「実践している企業」は30.2%と過去最高となりましたが、「意欲あり」がダウンし、取り組みが二極化しています。一方で、SDGsの認知度は95%と過去最高となり、とくに10代20代の若者のSDGsへの関心は高まっているという調査結果も複数みられます。

ソーシャルセクターの皆さんが取り組む活動は、SDGsと密接につながっていますが、達成の危機や、企業の関心低下という厳しい状況のなかで、ソーシャルセクターに求められていること、できることは何でしょうか。

今回はETIC.創業時の理事であり、書籍『「未来の授業」シリーズ』監修者である、東京都市大学教授の佐藤真久さんに、ETIC.広報担当の木村静がインタビューしました。

佐藤 真久(さとう まさひさ)さん

東京都市大学大学院 環境情報学研究科 研究教授/学長補佐(兼務)

筑波大学卒業、同大学院環境科学研究科修了。英国国立サルフォード大学にてPh.D.取得(2002年)。地球環境戦略研究機関(IGES)研究員、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)シニア・プログラムスぺシャリストを経て現職。現在、UNESCO ESD-Net 2030 フォーカルポイント、UNESCO Chair(責任ある生活とライフスタイル)国際理事会理事、人事院公務員研修講師(サステナビリティとリスク社会)、環境省・地域循環共生圏有識者会議委員、SEAMEO-JAPAN ESDアワード国際審査委員会委員などを兼任。協働ガバナンス、社会的学習、中間支援機能などの地域マネジメント、組織論、学習・教育論の連関に関する研究と実践を進めている。

ETIC.(エティック)制作の「社会課題解決中マップ」が、SDGsという国際的な目標とつながる

木村:まず、佐藤さんが監修、ETIC.が編集協力している書籍『「未来の授業」シリーズ』の発行の背景を教えてください。

佐藤:もともとは宣伝会議が企業と若者が交流するイベント「SDGs未来会議」の場づくりを2019年から一緒に進めていました。対面でインタラクティブな対話の場を全国でつくり始めていたのですが、2020年頃、新型コロナウイルスの影響で、一切できなくなってしまったのです。

そこで書籍という形で「未来の授業」を届けようということになりました。当初はこれほど長く続くシリーズの予定はありませんでしたが、非常に多くの企業の協賛を得られ、学校の先生や子どもたち、クリエーターも巻き込んだプロジェクトとなりました。

私は、当時から、ETIC.(エティック)が制作してきた国内の地域課題と解決事例を可視化したWebサイト「社会課題解決中マップ(以下:「シャカ中MAP」)」とSDGsという国際的な目標をどうつなげていくかが重要だと考えていました。SDGsという、ある種「外から降って湧いてきたような国際目標(Global)」と、日本の足元にある泥臭い地域課題(Local)を掛け合わせること。それによって、遠い世界の話を「自分ごと化」するきっかけをつくりたいと考えました。そこで、日本の社会課題と自分自身の興味を掛け合わせるきっかけとして、この書籍を作ったのです。

SDGsの一般化により企業の関心が低下。子どもたちのために出版継続の危機を乗り越えたい

初期の4冊は、ユネスコの「学習の4本柱」に基づき、「Do(技能)」「Be(価値)」「Live together(共生)」「Transform(変容)」という4つの視点を提示しました。その中で、特に反響が大きかったのが2冊目の「Be(どう生きたいか:ライフキャリア)」でした。そこで5冊目以降は、この「ライフキャリア」を軸に、私たちの生活に不可欠な「食、衣、移動と交通」をテーマに展開することにしました。

第5弾は「食」をテーマに、直感派のけんたが地産地消に挑み、第6弾は「衣」をテーマに、アイデア派のゆみがエシカルファッションを考えました。そして今回の第7弾は「移動と交通」をテーマに、理論派のアレックスが主役の物語です。サステナビリティの主要素である「衣食住+移動・交通」を、キャラクターたちの学習スタイルに合わせて深掘りしていく構成になっています。

もし来年度も続けられるなら、次は「住(居場所)」をテーマにしたいと考えています。しかし、実は今、出版継続の危機に直面しています。SDGsという言葉が一般化したことで、皮肉にも企業の協賛が減ってきているのです。「もうわざわざ言わなくてもいいだろう」という大人の論理で引いていく企業に対し、子どもたちには罪はありません。だからこそ、私は頭を下げてでもこのプロジェクトを続けたいのです。

SDGsは課題群なので、個別の問題解決だけを考えていても解決できません。従来型の縦割り式の考え方では解決できないので、SDGsが浸透した今こそ、政府や行政、企業が共創して解決策を考えるべきタイミングです。若い世代の関心の高さも、全世代のアイデアによる解決法を生み出す契機ととらえることもできるはずです。

ETIC.が育んできたエコシステムの価値が、「シャカ中マップ」と連動して教育現場に伝わった

木村: 厳しい状況のなかで、7年間継続されてきたプロジェクトの価値をどう感じていますか?

佐藤: 一つは、ETIC.の「シャカ中MAP」が教育現場のみらず、会社の社員の能力開発、自治体の職員研修などに広まったことです。とりわけ、この本は7年間、毎年、日本全国の小中高校約35,000校に配布されてきました。今では本の中で紹介している「シャカ中MAP」を使って授業を行う先生がたくさんいます。

SDGsは世界の文脈で語られますが、「シャカ中MAP」には日本のリアルな課題が描かれている。この二つを接続させ、地域の課題を活かすことで、地域の課題と日本の課題、世界の目標をつなげるきっかけになりました。

また、「シャカ中MAP」の良さは、単なる課題の一覧ではなく、600もの「チャレンジしているプロセス(プレイヤー)」が見えることです。

社会課題というと、どうしても『解決すべき問題』として重く捉えられがちです。しかし「シャカ中MAP」には、それに挑む600もの『チャレンジのプロセス(プレイヤーの姿)』が可視化されています。問題ではなく、解決中の『挑戦』として捉え直すことで、子どもたちは希望を感じ、自分も関わってみたいと思えるのです。

「シャカ中MAP」を通してチャレンジのプロセスや挑戦者がいることを見せられるのは素晴らしい。子どもたちはWebサイトを通じて、プレイヤーにコンタクトをとるケースもうまれています。

社会課題解決に取り組む企業や本人とつながることで、社会と子どもたちの距離感が縮まる

佐藤:子どもたちの書籍の読み方も発達段階で異なります。小学生は漫画から、中学生は地域探究と組み合わせて、高校生はキャリア研究として企業の取り組みを学びます。今の「SDGs世代」の若者は、企業がアピールとして使うSDGsよりも、はるかに本質的に、統合的に課題を捉えています。なので、就職先も給料だけでなく「志」で選んだり、「社会課題解決」に挑む視点で選んだり、起業という選択肢も増えてきています。

木村: 佐藤さんは書籍紹介で「世界を覆ったCOVID-19パンデミックや、世界中に見られる不信と不和の連鎖は、数多くの私たちの周りにあった問題を浮かび上がらせました。このような時代だからこそ、学び・行動・協働を支えることにつながる、自身のあり方(BE)が問われています。」と書かれています。たしかに、戦争状態の国々、環境問題や地球温暖化への考え方、ジェンダーや多文化共生など、意見の違いを煽るような風潮も広がっているように思います。私たちはそんな今の社会をどのように考えて取り組めばいいでしょうか?

佐藤: 世代間でものごとの捉え方が大きく違いますね。高度経済成長や世界経済大国の成功体験に縛られた「経路依存性」から抜け出せない大人の世代は多いですが、若い世代は不透明な社会でしなやかに生きています。ただ、若者も二極化していて自分の周りだけ良ければ良いという発想の若者もいます。

今、大切にしてほしいのは、自己変容型の知性です。私たち自身が変わりながら、社会を変えていく。現代の生涯探究社会においては、常に他者と関わりながら自身の最適解の更新をしていくことが大事です。そのために重要なのは、VUCAに一緒に向き合う仲間。大切なのは、「モヤモヤ(ネガティブ・ケイパビリティ)」を共有できる仲間の存在です。

課題群は複雑で個人だけで解決できるものではないから、対話をしながら社会のことやお互いの意見について理解を深め、最適な解を更新しながら行動していくのが現代的な手法です。そのためには仲間だといえる異質性の高い他者との関係性が重要。仲間じゃないと思った人とは、対話ができません。そして、仲間がいないと、最悪の場合、自分だけが良ければいいと思ってしまいます。

モヤモヤは一般につらいものとされますが、それを共有できる仲間がいれば、分断を乗り越え、最適解を更新する力になります。ETIC.のコミュニティが30年以上続いてきた価値はそこにあります。答えを教え合うのではなく、共に悩み、変わり続ける。この「自己変容」(変わる)の姿勢こそが、これからの社会に必要な土壌です。

木村: 素晴らしいヒントをいただきました。苦しいときにこそ、ETIC.のコミュニティが本領を発揮するということですね。

佐藤: ありがとうございます。私も社会の中でぶつかりながらも、新しい社会のあり方を伝えていきたいと思っています。ETIC.のメンバーとも、もっと一緒に仕事をしたいですね。今後ともよろしくお願いします。

DRIVEメディアでは、佐藤さんに探究学習の本質についてのインタビューが掲載されています。こちらも合わせてご覧ください。

「正解」のない世界を歩くために。「あり方(Be)」と「協働」で始まる探究学習の本質──東京都市大学大学院 教授・佐藤 真久さんインタビュー

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