社員インタビュー
経営層の熱狂から始まったand Beyond Companyは、社員の「個人の意思」をつなぐフェーズへ。組織の壁を越えた個人の応援が、企業に変革の種をまく。ETIC.コーディネーターインタビュー──小泉愛子
NPOやNGO、ソーシャルベンチャーといった「ソーシャルセクター」への転職・参画に関心を持つ人々が増え続けています。かつては「知る人ぞ知る」領域だったこの世界で、今や多くのビジネスパーソンがキャリアを築こうとしています。
しかし一方で、採用現場では「応募数はあるのに、マッチングに至らない」「採用難易度が上がっている」という声も聞かれます。ソーシャルビジネスの市場が拡大するなかで起きている構造的な変化とは何か。そして、個人と組織がお互いに幸せな出会いを果たすためには何が必要なのか。
NPOリーダーや社会起業家の右腕・幹部人材マッチングを長年手がけてきた「DRIVEキャリア」の事業責任者・腰塚志乃と、ETIC.の山内幸治が、ソーシャルセクター採用の過去・現在・未来を語り合いました。

山内幸治(以下、山内):今日は、ソーシャルセクターにおける求人や採用について、どんな兆しが見えていて、これからどんな可能性を見出してやっていけばいいのか、その方向性を探っていきたいと思っています。
まずは入り口として、「DRIVEキャリア」のこれまでの歩みを振り返ってみましょうか。そもそもなぜDRIVEキャリアを始めたのか、どのような変遷を辿って現在地にいるのか。そのあたりから教えてもらえますか?
腰塚志乃(以下、腰塚):はい。DRIVEキャリアがスタートしたのは2013年です。ETIC.設立から20年が経った頃です。当時はまだ、ソーシャルセクターへの転職に関する情報が世の中にほとんどありませんでした。ETIC.のスタッフがそれぞれ個別に、ボランタリーベースで相談を受けて、ETIC.の起業支援プログラムOBOGなど、知っている団体を紹介する……といったことを行っていたんです。
そこで、「やっぱりちゃんとまとまった情報がある場所が必要だよね」ということで立ち上がったのがDRIVEキャリアの始まりです。当時は、いわゆる「掲示板」的な機能を目指していました。求職者側からも、採用したい組織側からも情報が集まってくる場所をつくり、人を介さずに情報を流通させることで、まずは「ここに情報がある」という状態をつくろうとしたんです。
山内:ETIC.が培ってきたコミュニティへの期待を、ちゃんとサービスとして世の中に還元していこうという意図でしたよね。その根っこの考え方は今も変わっていないと思いますが、そこから人材紹介やエージェント的な機能に踏み込んでいった背景には何があったのでしょうか?
腰塚:2019年頃、私がDRIVEキャリアの運営にジョインした時期からより力を入れ始めたのですが、背景には「情報の非対称性」と「ミスマッチ」の問題がありました。
一般企業の転職活動であれば、条件とスキルさえすり合えば、業種と職種から仕事内容が大体イメージできますし、調べれば情報はいくらでも出てきます。しかし、ソーシャルセクターの場合、「NPOの広報」「事務局長」と言われても、団体によって想定している仕事内容はバラバラです。どんなビジネスモデルで、どんな価値観で動いているのかも、外からは見えにくい。
結果として、「飛び込んでみたけれど、思っていたのと違った」というミスマッチが起きていました。だからこそ、単なる掲示板ではなく、私たちが間に入って「ここの団体はこういうカルチャーですよ」「ここはこういう状況ですよ」とコミュニケーションを取り、お互いの価値観をチューニングする機能が必要だと痛感したんです。
山内:なるほど。単なるスキルマッチングではなく、その組織が持つ文脈や価値観を翻訳してつなぐ役割が必要になったということですね。
それに加えて、根底には「誰もがアントレプレナーシップ(起業家精神)を持っている」というETIC.の思想もありますよね。優秀だから仕事がある、ないという話ではなく、その人の役割ややりがいが開花する「お役目」に出合えるかどうか。そこをブリッジしたいという願いが、エージェント機能の強化につながっていったのではないでしょうか。
腰塚:おっしゃる通りです。私たちが100%橋渡しできるわけではありませんが、私たちなりにその多様性を理解し、お役に立てる「かけ橋」になりたいと考えてやってきました。
山内:2019年から現在までの約7年間で、市場にはどのような変化がありましたか?
腰塚:一番大きな変化は、NPOへの転職を考える層がググッと増えたこと、もともと多かった20代・30代に加え、特に40代・50代の方々のエントリーが明確に増えていることです。これは時代背景と、その年代の方々の心持ちが大きく影響していると感じています。これまで「とにかく経済成長だ」と、会社のためにがむしゃらに働いてきた世代が、ふと立ち止まるタイミングなんですよね。
お子さんが大きくなって教育費が一段落したり、「この先に大きな昇格や役割の変化はなさそう」「定年までこのままでいいのか」といった会社の中での自分のキャリアの先が見えてきたりする。そんななかで、「残り15年ほどの社会人人生をどう使うか」「人生の後半戦は、社会貢献にしっかりコミットしたい」と考える人が非常に増えています。
山内:それはすごくポジティブな変化ですよね。自分のスキルを社会のために使いたいという思いが解放されつつある。
腰塚:そうなんです。皆さん、「これまでネガティブなインパクトに加担してしまっていたかもしれない」という違和感や、「これをやり続けた先に何があるんだろう」という問いを抱えていらっしゃいます。
男性の場合は特に、「会社人生の中で感じてきた鬱屈としたものを晴らしたい」「もう一回挑戦するなら今だ」という方が多い印象です。女性の場合は、出産や育児などのライフステージの変化を経て、「子どもたちの未来のためにこのままでいいのか」「誇れる仕事がしたい」という世界観の変化からエントリーされる方が多いですね。
山内:一方で、そうした層が増えるなかで、採用の現場ではどのようなことが起きているのでしょうか?
腰塚:エントリー数は増えているものの、採用する団体側からは「欲しい人に出会いづらくなった」という声も聞かれます。市場全体のエントリー数は、2022年頃をピークに少し落ち着きを見せていますが、それ以上に「人気のある団体」と「そうでない団体」の格差、そして「採用できる人」と「できない人」のミスマッチが広がっている感覚があります。
山内:40代・50代の経験豊富な方々が、ソーシャルセクターへの転職で成功するための鍵は何でしょうか?
腰塚:成功の鍵は一つだけ、「柔軟性」です。これまでのビジネスでの成功体験を、活かすところは活かしつつ、一旦リセットして新しい環境の作法をキャッチアップできるかどうかがすべてだと言っても過言ではありません。
山内:
具体的に、うまくアジャストできた事例などはありますか?
腰塚:例えば、60代で大手企業の関連会社の取締役まで務められた女性の方の事例があります。カルチャースクールなどを展開している事業者で高齢者向けマーケティングや企画をバリバリ進めてきた方ですが、現在は国際人道支援をするNPOで遺贈寄付の担当をしています。彼女の素晴らしいところは、大企業の役員という肩書きや、「自分はマーケティングのプロだ」というプライドを一旦横に置いて、「前提をしっかり学び直す」という姿勢からスタートしたことです。
NPOにはNPOなりの動き方や作法があります。それを理解した上で、「じゃあ、ここで私の経験をどう活かせるか」と考えられるからこそ、成果を出せているのだと思います。最初から「私のやり方が正しい」と振りかざしていたら、こうはならなかったと思います。
山内:なるほど。自己認知が正しくできていて、組織との距離感をアジャストできる力ですね。以前、CFA(特定非営利活動法人 Chance For All)の代表・中山勇魚さんがおっしゃっていた表現が印象的でした。
腰塚:「Tシャツの上にシャツを羽織っていて、いつでもシャツを脱いだり着たりできる人がほしい。でも、下にはちゃんとTシャツを着ていて、現場で子どもたちと一緒に遊べる人じゃないと困る」という話ですよね。
山内:そうそう。「ずっとネクタイ締めてます」という人はいらないけれど、必要な時にはシャツを着て渉外もできる。「脱ぎ着ができる人」というのは、今のソーシャルセクターで求められる人材像をすごく的確に表していますね。
腰塚:本当にその通りのオーダーが多いです。特に最近の団体側の傾向として、求める役割が「多機能化」しています。現場での支援経験や肌感覚も持ってほしいけれど、同時にアドボカシー(政策提言)もできる、上流の事業企画もできる、さらには多様なステークホルダーとのコーディネーションもできる……といった具合に、上流から下流まで一気通貫できる人を求めています。
山内:それはETIC.自身の組織作りを振り返ってもよくわかります。社会課題が複雑化し、コレクティブ・インパクトのように多様な組織と連携して事業を組み立てる必要性が高まっているからこそ、現場力と構想力の両輪を持った人材が求められている。でも、現実的にそんなスーパーマンがいきなり採用できるかというと、それは難しいですよね。
腰塚:そうなんです。団体側も「即戦力で、専門性があって、フルコミットしてくれて、でも給料はこれくらいで……」という高いハードルを設定しがちです。でも、それではいつまでたっても採用できません。
そこで重要になるのが、「一発で転職」というリスクの高い方法ではなく、グラデーションのある関わり方です。お互いに「こなれていく」期間や仕組みが必要だと思っています。
山内:そこで我々が力を入れているのが、兼業・副業人材のマッチングプログラム「Beyonders(ビヨンダーズ)」ですね。
腰塚:はい。Beyondersは、3カ月間限定のプロジェクトベースで、NPO等の活動に参画できるプログラムです。いきなり転職するのではなく、まずは「お試し」で関わってみる。自分のスキルが通用するのか、組織のカルチャーに合うのか、自分はこのテーマに本当に情熱を持てるのか。それを確認する「チューニングの機会」として機能しています。
山内:2024年度は年間で約100名の方が参加してくれていますね。そうやって「ソーシャルセクター慣れ」した人が増えていけば、市場全体の流動性も高まっていくはずです。
腰塚:もう一つのアプローチとして、団体側に対して「専門性と実行者を分ける」という採用の提案もしています。例えば、専門的なスキルを持つ40代・50代の方には、フルタイムの社員ではなく業務委託や副業として入ってもらい、週1〜2回の関わりで知見を提供してもらう。一方で、その下で手を動かす実行部隊として、ポテンシャルのある若手やフルタイムスタッフを採用し、育ててもらう。
山内:なるほど。それならトータルコストも抑えられますし、高度な専門性を組織に取り込むことができますね。
腰塚:そうです。「マネジメント層を採用したい」という相談を受けたとき、「週5日フルタイムのマネージャー」を探すと年収800万でも見つからないかもしれませんが、「週2日関わってくれるメンター的なマネージャー」と「現場リーダー」の組み合わせなら実現可能だったりします。そういった「チーム組成の多様性」を組織側が持てるかどうかが、これからの採用の成否を分けるポイントだと思います。
山内:まさに、マネジメント層としてチームをアサインできる、組み立てられる側の「受け入れ力」が問われていますね。
山内:今後、さらにこの流れを加速させるために考えていることはありますか?
腰塚:少し未来の話になりますが、DAO(分散型自律組織)のような仕組みには可能性を感じています。
これまでは私たちが間に入ってコーディネートしてきましたが、例えばBeyondersのようなコミュニティの中で、プロジェクトやタスクが可視化され、関心のある人が自ら手を挙げて仕事が得られるような、自律分散的なマッチングができたらいいなと。
山内:マッチングのボトルネックをなくしていくということですね。
腰塚:はい。「面接」という堅苦しいプロセスを経ずに、小さなプロジェクトで一緒に働いてみて、「この人いいね」「この仕事おもしろいね」という信頼関係から雇用や継続的な関わりにつながっていく。そうやって「こなれていく」プロセスをもっと自然発生的に作っていきたいです。
山内:最後に、あらためて今の市場の状況をどう見ていますか?
腰塚:エントリー数が増えている、関心を持つ人が増えているというのは、間違いなく素晴らしいニュースです。かつては「知っている人しか来ない」村社会のような側面もありましたが、今は裾野が広がり、多様なバックグラウンドを持つ人が集まってきています。
ただ、これまでとは違う層が入ってきている分、従来のやり方ではうまくいかないミスマッチも増えています。求職者側は「アンラーニング(学習棄却)」して柔軟性を持つこと、組織側は「関わり方のバリエーション」を増やすこと。お互いが少しずつ歩み寄ってアジャストしていけば、もっと多くの人材が活躍できるポテンシャルがあります。
山内:私自身も今、香川県で地域に入り込んで活動していますが、新しいフィールドに入るときは「就職活動」のような感覚ではなく、おっかなびっくり探りながら、3年くらいかけて徐々に関係性を築いてきました。
「一発で正解を見つける」のではなく、副業やプロボノ、Beyondersのような機会を通じて、自分の軸と社会のニーズが重なる部分を探る「旅」をする。そして、時にリセットし、再編集しながら、自分なりの関わり方を見つけていく。そんな風に、誰もが自分らしく社会に関われる生態系を、これからもつくっていきたいですね。
腰塚:そうですね。「ビジネスセクターではできないやり方」や、新しい組織と個人の関係性を、ここから発明していけたらと思います。
【プロフィール】
山内 幸治(やまうち・こうじ)
NPO法人ETIC. シニアコーディネーター / Co-Founder
1997年、創業期のETIC.に参画。長期実践型インターンシップ事業、社会起業家支援プログラムなどの立ち上げ・運営に携わる。現在は香川県を拠点に、地域コーディネーターとしても活動中。
腰塚 志乃(こしづか・しの)
DRIVEキャリア 事業責任者
人材系企業等を経て、2010年にETIC.に参画。ソーシャルイノベーション事業部を経て、ソーシャルセクター向け求人メディア「DRIVEキャリア」の運営、NPO・ソーシャルベンチャーへの人材採用支援、キャリアコーチングなどに従事。多様な働き方による社会課題解決の加速を目指す。
【関連リンク】
DRIVEキャリア https://drivecareer.etic.or.jp/
「社会を変え、未来をつくる」仕事に特化した転職支援サービス
Beyonders(ビヨンダーズ) https://beyonders.etic.or.jp/
社会課題解決の現場に、3カ月限定・オンライン中心で参画できる実践型プログラム。
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