社員インタビュー

「受け手」の経験を、「出し手」の設計へ。トラスト・ベースド・フィランソロピー(TBP)を手がかりに考える、信頼をベースにした資金提供のあり方。ETIC.コーディネーターインタビュー──番野智行

いま、「信頼」をベースにした資金提供のあり方として、トラスト・ベースド・フィランソロピー(TBP)が世界的に注目を集めています。日本で良い実践をさらに広げるため、一般社団法人トラスト・ベースド・フィランソロピー・ジャパン(TBP-J)の活動に、ETIC.も協創パートナーとして参画しています。

長年にわたる資金の「受け手」「出し手」双方の経験も背景に、TBP-Jの立ち上げで中心的な役割を果たしたETIC.ソーシャルイノベーション事業部の番野智行に、立ち上げの背景や目指すゴールを詳しく聞きました。

定義の前に、まず自分の「受け手」としての経験から

戸田健(以下、戸田) トラスト・ベースド・フィランソロピー(TBP)について今日は伺っていきたいと思います。

番野智行(以下、番野) 定義から入ることもできるのですが、まず申し上げたいのは、これは新しい考え方ではない、ということなんです。だから定義より、なぜ私がこのテーマに取り組んでいるのかを、自分の経験からお話しさせてください。私はETIC.で長く、どちらかというと資金の「受け手」の側で、いろいろな助成金や資金をお預かりして活動する立場を経験してきました。社会課題に挑むリーダーや組織の支援は、挙げきれないほど多くの企業や財団などの支えによって成り立ってきています。

戸田: 「受け手」としての経験というのは?

番野: 一つ例を挙げると、2011年の東日本大震災からの復興支援です。ETIC.は、被災地で復興に尽力するリーダーのもとに「右腕」となる人材を数ヶ月から一年派遣する「右腕プログラム」を続けてきました。200人を超える方を派遣できたのですが、その活動は多くの資金提供者に支えられていて、私は海外を中心にファンドレイジングを担当していました。海外の財団や基金に提案書・申請書や報告書を書き、その内容についてご説明する仕事です。思い返した時に、単に資金を提供して頂いてありがたい、というだけでなく、私たちが本当に必要な事業に取り組めるように仕組みや関係性でたくさん支えて頂いたことをいまでも覚えています。

受け手として「ありがたかった関わり」を、出し手の設計に

戸田: 2020年頃からは、資金を「出す」「仲介する」側の仕事が増えたそうですね。

番野: 休眠預金の活用や、民間の助成金の企画・運営の支援の仕事が増えてきました。ETIC.自身が資金を持っているわけではないので、出し手と受け手の間に立つ立場です。そこで思ったのは、単に助成プログラムを立ち上げるのではなく、自分が受け手としてありがたかった関わりを、助成金の設計に反映しよう、ということでした。

どんな助成が良かったかを棚卸しすると、様々なポイントがあります。例えば、人件費も含めて、活動に応じて本当に必要なところに必要なお金を配分できること。形式的なルールで縛るのではなく、実質で検討できること。一度決めた使途も、やってみて分かる想定外があれば、目的さえぶらさなければ「ではこうしましょう」と一緒に考えてくれること。

報告書も、何に使ったか、どんな成果が出たかだけでなく、「成功や失敗から何を学び、次にどう生かすか」を問われた経験がありがたかった。組織として材料を集め、議論し、書くのは大変ですが、振り返りの機会になりますし、相手も耳を傾けて一緒に考えてくれました。また、適正な会計や監査は当然の前提として、「報告のためだけの書類づくり」に時間を取られないよう事務手続きも最小限にする努力を感じました。その分、現場に必要な仕事に集中できました。

戸田: なるほど。これまでありがたかった助成金のあり方は、ほかにもありますか?

番野: 複数年の助成であることは大きいです。実際、ETIC.の事業も多くは複数年の助成に支えられています。東北の事業も復興に要する時間軸を理解いただけたことで、腰を据えて活動に取り組めました。従来の取り組みでも、例えば社会起業塾というプログラムはNECさんを中心に20年以上ご支援いただいています。単年で毎年ゼロから審査するのではなく、成果を出せば続く関係があると、「次のお金の心配」に毎年エネルギーを割かずに、長い目で良いものをつくれます。試行錯誤も可能になります。

戸田: その考え方が象徴的に表れた例が、みてね基金なのですか?

番野: はい。みてね基金は、MIXIの創業者・笠原健治さんの資金をもとに、MIXIとETIC.が共同で事務局を担う民間の基金です。私は立ち上げ期の担当でした。始まりは2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大初期でした。この先どうなるか、何がインパクトのある活動か、誰も分からない状況で、計画で選ぶことは困難です。私たちが東日本大震災の後に経験したことと、ある意味似た状況でした。だからこそ、現場で真摯に活動をしてきた団体の提案に託すことを大切に、4月半ばの公募開始から1ヶ月半ほどで、53団体に約3億円の助成を決めました。まさに信頼がキーになった例です(みてね基金の詳しい経緯は、greenzさんのインタビュー記事に譲ります「助成金による支援を、「管理モード」から「信頼モード」へ。Trust-Based Philanthropyに基づく資金提供は、日本の非営利団体の可能性を広げていく」)

助成先の団体のその後の活動の様子を見て、改めてこうしたアプローチを実践し、磨いていきたいと思いました。みてね基金だけでなく、私や他のチームメンバーが手掛ける案件でも、受け手が活動に集中できる資金の出し方や関係性を、可能な限り考えるようにしています。

「名前」があることをあとで知った

戸田: 「トラスト・ベースド・フィランソロピー」という言葉には、どこで出会ったのですか?

番野: 2022年頃、たまたま、このアプローチに名前がついていることを知りました。2020年にアメリカで生まれたムーブメントなのですが、そこに提唱されていたことが、私たちが大事にしてきたことと重なったのです。同じ方向の模索が世界中にあることを知ったことも励みになりました。

ただ、ここは強調したいのですが、TBPは「輸入」ではありません。日本の助成の現場にも、昔からこういう実践はたくさんありました。ただ、それに名前がつかず、知られたり、学ぶ機会が限られていたために、広がりづらかったのではないかと思っています。TBPは、あくまで実践に名前をつけることで共有しやすくするための参照概念だと考えています。

信頼は、成果をあきらめることでも、単に見守ることでもない

戸田: 「信頼を大事にすると、成果へのこだわりが薄くなるのでは」と言われませんか?

番野: これは海外でも議論があるのですが、私は逆だと考えています。信頼があるからこそ、柔軟に資金を使え、率直に情報を共有でき、負担が軽くなり、成果に集中できる。これはSSIRの論文にも整理されています。高い成果を目指し、健全な議論や学習をするには、心理的安全性が欠かせないのと同じ理屈です。奇抜な話ではなく、当たり前の前提を確認しているに近いと思っています。

また、このアプローチは課題に最も近いところにいる人(NPOやコミュニティ)の力を信頼するということでもあります。助成する側と受ける側の間にある力の傾き(権力勾配)を自覚した上で、出し手がすべてを把握して指示命令するのではなく現場を信頼する、ということです。インパクトを手放したわけではなく「誰の時間・専門性・経験に価値を置くか」という意識の違いです。

戸田: 出し手の側は、信頼して任せて待つ、ということでしょうか。

番野: いえ、出し手にもできることはたくさんあります。例えば、いろいろな団体の活動報告を受け取り、活動を聞く機会に恵まれるのであれば、社会にどんな課題があって、どんな打ち手が試みられているか、情報が集まってくるわけです。(機密情報は別にして)そこからの学びを社会に還元し、次の良い実践につなげることもできます。受け手と一緒に考えることもできるでしょう。単に資金を提供するだけでなく、中間支援の機能を果たすことでもあります。

当たり前のOSになることを目指して

戸田: 最後に、TBP-Jとして目指していることをお願いします。

番野: TBP-J自体を大きくすることは、ゴールにしていません。一緒に立ち上げた仲間とは、2030年には解散できるといいね、と話しています。こういう考え方を持った助成プログラムやプログラムオフィサーが増えて、この輪が広がること自体がゴールなので。いちプレイヤーとしての実践は続けますが、当たり前のOSになればTBP-Jという組織の役割は終わると思っています。事業というより、社会運動です。

4月には理事体制の強化を行い(番野は代表理事から常務理事に)、70名近い方にアンバサダーになって頂きました。多くの資金提供者やプログラムオフィサーの方から関心や協力を頂いており、手応えを感じています。単に成果につながるだけでなく、自分の時間とエネルギーを社会のために使いたい、そのための仕組みや関係性を根付かせていきたいという強い願いも感じています。

そして、もちろん、挑戦をより良い形で後押しする資金や出し手が増えることは、ETIC.のビジョン・ミッションとも地続きだと思っています。ぜひ、まだまだ多くの方にこの輪に加わって頂きたいです。

<ご関心のある方へ ~イベントのご案内>

トラスト・ベースド・フィランソロピー・カンファレンス2026
2026年7月18日(土)13:00〜17:45(懇親会 17:45〜19:00)
会場:シティラボ東京(東京都中央区京橋3-1-1 東京スクエアガーデン6階)/定員80名 https://trustbasedphilanthropy-conference-2026.peatix.com/view

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