社員インタビュー
「受け手」の経験を、「出し手」の設計へ。トラスト・ベースド・フィランソロピー(TBP)を手がかりに考える、信頼をベースにした資金提供のあり方。ETIC.コーディネーターインタビュー──番野智行
近年、社会課題が多様化・複雑化するなか、課題解決に挑む起業家やチェンジメーカーを支援する「エコシステム」のあり方が大きく変わりつつあります。NPOやソーシャルビジネスの現場では、単発のプログラム提供にとどまらず、長期的な視点で多様な人材が交わり、協働しながら社会変革を生み出すコミュニティづくりが求められています。
ETIC.(エティック)の事業においても、参加者が数千人規模に拡大するプロジェクトが生まれるなど、支援のかたちがより大規模かつ複合的になりつつあります。それに伴い、個別事業に合ったデータ管理と同時に、全社共通のIT基盤(ETIC.ID)を通じて一人ひとりに最適な機会を届けるなど、ITや情報管理は、単なるバックオフィス業務を超え、事業成長とインパクト創出の「コア」へと進化しています。
こうした組織とITの変化の最前線で、インフラ整備と事業伴走の「二刀流」で現場と日々向き合い続けているETIC.経営管理部システムエンジニアの高木俊之に、ETIC.の戸田が、IT基盤整備がもたらす起業家支援の可能性について聞きました。

戸田:まずはETIC.に入るまでの経緯や、なぜ入職したのか教えてください。
高木:前職はシステムエンジニアとして銀行のシステム開発・運用に携わっていました。社会的な影響が大きい仕事でやりがいがありましたが、「もっと規模は小さくてもいいから、手触り感や手応えのある仕事をしたい」という思いが強くなり退職しました。
その後、ソーシャルセクターに興味があったので慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で広石拓司さん(元ETIC.スタッフ)の授業(ソーシャルビジネスプランニング)を受講し、そこでETIC.という団体の存在を知りました。当時は「起業家支援」という言葉も知らず「そういう団体があるんだな」という程度の印象でした。 その後、ソーシャルセクターについてもっと学びたいと思いアメリカへ留学しました。
戸田:え、そうだったんですか!それは知りませんでした。
高木:実はそうなんです。現地では勉強や地域コミュニティでの交流で充実した毎日を送っていたのですが、次第に「早く現場に出て実践したい」と思うようになりました。そのため大学は中退し、帰国に合わせて求職活動を始めました。主に教育領域のNPO法人の求人を探していましたが、ふとETIC.のことを思い出し、「データベースマスター募集」という求人が出ていることを知りました。求人のリード文にあった「2万人の起業家を生み出す」というスケール感に惹かれ、「その基盤を作る仕事はおもしろそうだ」と応募し、入社に至りました。
戸田:なるほど。その時は、特定の社会課題への関心というよりは、NPO業界全般がどのような活動をしているのかという関心で動いていたのですか?
高木:そうですね、全般というのが近いと思います。私は中高生時代、何か新しいことに挑戦したり自分の枠を飛び出したりすることが特になかったのですが、大学進学後に塾講師のアルバイトをしたり社会人になりシステムエンジニアの仕事を始めてからは、新しい友人や同僚からの刺激もあり、人生の選択肢や視野が大きく広がった実感があります。「出会いで人生の可能性が左右されるなら、自分もその仕組みづくりに関われないか」と考えるようになりました。
前職を辞めた後、留学する前に、教育領域のNPOの現場にボランティアとして参加し、事業の現場を見に行きました。それを通じて気づいたのは、自分にはこれまで培ってきたITスキルを使って「人が挑戦できる環境」を作る方が、向いていそうだということでした。
特定の社会課題をどうしたいというより、何か裏の基盤を支えるような「仕組み作り」を仕事にしたいと考えるようになりました。
戸田:なるほど。そうしてETIC.に入って、最初はどのような仕事をされていたのですか?
高木:最初はスタッフのITオリエンテーションやGoogle Workspaceの運用などのいわゆる社内情報システム業務と、クラウドデータベースであるSalesforce(セールスフォース)の運用管理業務を担当しました。その後、ローカルイノベーション事業部を兼務し、全国の求職者と地域企業をマッチングする求人サイト「DRIVE REGIONS(ドライブ・リージョンズ)」事業のリーダーを務めました。
戸田:Web領域は未経験だったのですよね。不慣れな仕事も多かったのではないでしょうか。
高木:そうですね。WordPress(ワードプレス)が求人サイトを構築・管理するために利用されていましたが、この時初めて触りました。用語も分からず一から勉強する必要がありました。既にSalesforceを担当し始めていたので、求人にエントリーが入った際の自動メール通知機能のようなシステム面に関しては手応えを感じながら進めることができました。
一方で、地域企業の求人原稿を掲載するための多様なステークホルダーとの調整などは、未経験の領域でしたので手探りの日々でした。ただ事業の現場に立ったことで、「現場ではどうやってシステムが使われるか」を肌で学ぶ貴重な機会になりました。
その後、「DRIVE REGIONS」事業を無事に終えた後、元々のデータベースマスター(全社データベースの整備)の業務に注力していきました。
戸田:そこから本格的に経営管理部での業務に取り組むようになったのですね。当時のETIC.の情報管理にはどのような課題があり、それをどう解消しようとしていたのでしょうか。
高木:まずは多数あったプログラムやイベントのお申込みデータ、あるいはいただいた名刺情報などを、しっかりとSalesforceに集約・蓄積していくことが役割でした。
ETIC.では同時に多数のプロジェクトが実施されていますが、各事業部が業務フローに合わせて情報を取得する項目や利用者向けのフロー(Webフォームの設置など)を設計しています。それがSalesforceに確実に保管されるよう、設定を行ったり外部エンジニアとコミュニケーションを取ったりしていました。
全社データベースの共通化を念頭に置きつつも、各事業部の個別の管理や運用を支えるサポートに注力していた形です。目標である全社データベースを共通化するような仕組みの構想も行いましたが、多数のプロジェクトがある中で、実際にどうしたらそれが実現できるかの道筋は立て切ることができませんでした。
戸田:そこから変化の契機となった「事業再構築プロジェクト」について聞かせてください。
高木:上記の通りシステム面からのアプローチによるデータベースの共通化を進めあぐねていた中、別のスタッフにより「年間1万名を超えるETIC.のプログラムやイベント参加者が、いつでも自分に必要な挑戦の機会を見つけられるようにしよう」と、新しく共通顧客基盤「ETIC.ID」を構築するプロジェクトが立ち上がりました。中小企業庁の事業再構築補助金を利用したプロジェクトです。そこに私もデータベース担当として参画しました。
共通顧客基盤「ETIC.ID」は、ETIC.が開催するイベントやプログラムの申込みを一元化できるシステムです。前述したデータベースの共通化を実現することができる取り組みです。新しく外部のエンジニアとチームを組んで開発しました。
2023年7月にローンチし、「DRIVEキャリア」(ソーシャルセクターの求人マッチングサービス)などの人材サービスへのエントリーから導入を開始しました。ちょうどその後行われたETIC.創業30周年のイベントでは、過去にETIC.と接点を持った約5万人のステークホルダーの方々にご案内を送り、イベント申込み時にETIC.IDを登録いただくよう利用浸透策を実施しました。
戸田:ETIC.IDのシステムを構築し、全社共通の情報基盤を整備してきたわけですが、これによって実現したい一番の目的は何でしょうか。
高木:そうですね、ETIC.のすべてのプログラムやイベントで接点を持った方が、自分に必要なときにETIC.の機会を探して参加できる状態を作ることです。例えば、学生時代にETIC.のプログラムで地域企業にインターンに行った学生が、社会人になって「新しい挑戦をしたい」と思った時に、再び自分に合った機会と出会える、というイメージです。ETIC.IDがあることで、ライフステージや事業のステージが変わっても緩やかにつながり続けられるエコシステムの循環を作っていきたいです。
戸田:それを進めていく上での一番の難しさはどこにありますか?
高木:まさに「鶏と卵のジレンマ」があります。事業部のスタッフもETIC.IDの登録者が増えることがETIC.のエコシステムを支える1つのキーになることは理解しています。ただ、日々プログラムやイベントの企画やステークホルダーとの調整などに注力する状況において、ETIC.IDとの連携部分をどうするかのような、細かな設計・構築までリソースを割くのは難しいのが現状です。
参加者の申込み手続きの中に「ETIC.ID登録」というステップを入れると、申込みの離脱につながる懸念が生じてしまいます。一方で、「企画したプログラムを最適な人に届けたい」時には、「既にETIC.IDを持っている人にアプローチしたい」というニーズが発生します。
「ETIC.ID登録者が増えないと活用が進まないが、登録のハードルを上げると申込者が減ってしまう」というジレンマを、どう噛み合わせるかが大きな挑戦です。
戸田:事業部門とIT部門の関係性について、高木さんはどのように捉えていますか?
高木:IT部門には2つの役割があります。1つ目は、Google Workspaceのようなグループウェア、オンラインミーティングツール、生成AIのように「全社で安全かつ円滑に使えるインフラの提供」。
2つ目は、「各事業の情報管理への伴走支援」です。各事業によってステークホルダーの違いから、情報管理の要件が異なる場合があります。事業部門の担当者と一緒に伴走しながら事業に合った管理・活用方法を見出していく、という協働体制でなければ進みません。
ETIC.のIT部門には「インフラを整えて終わり」ではなく、現場と一体となって事業の成功に向けて「一緒にコミットする」という意識が必要だと思います。部門の垣根を越え、ITの力を使って目の前の難しい課題に挑む姿勢が大切だと考えています。
戸田:事業成果を最大化するために、IT部門が事業部へ深く伴走した具体的な支援事例はありますか?
高木: そうですね、東京都からの委託事業で実施している15歳〜39歳までが応募できるビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(TSG)」がその1つです。以前はコンテストへのエントリー数は数百名規模でしたが、近年では数千名規模にまで拡大しました。
事業の規模の拡大に伴い、受託事業者として求められる情報セキュリティ・個人情報管理基準の高度化への対応や、担当スタッフの運用負荷軽減策が必要になりました。エントリー件数が増大するなかで、ガバナンスを担保しつつ、スタッフが注力すべき「挑戦者への伴走や企画」の時間をしっかりと確保する必要がありました。
そこでIT部門としてTSG事業に参画し、「事業拡大と高いセキュリティ水準に対応するために、システムはどうあるべきか」という視点からコミットし、安全で効率的なデータ運用の仕組みを再構築しました。
戸田:このような「ITインフラ整備を担う情報システム」と「事業へ伴走するパートナー」の二刀流という話は、非常に価値のあるテーマだと思います。どうすればその両立ができますか。
高木:まず大前提として、そうした働き方を応援してくれる、ETIC.の組織風土があることです。「社内情報システムの仕事だけに専念しなさい」と言われる環境であれば、私も個々の事業のシステム構築に関わることはなかったと思いますが、ETIC.には「意志を持って手を挙げたことは、信頼して任せる」という土壌があります。また、事業部といきなり協働するのではなく、普段からのちょっとしたサポートを通じて事業や業務のことを理解している点も重要でした。
戸田:最近では生成AIなど新しい技術も次々登場していますが、事業部とのせめぎ合いやバランスはどう取っていますか?
高木:せめぎ合いは日常茶飯事です(笑)。現場からは「業務効率化のために便利なこのツールを使いたい」という声が上がります。一方で私たちは情報漏洩防止や利用規約・ガバナンスの観点から「待った」をかけざるを得ない場面もあり、発想のぶつかり合いは常にあります。
ただ、私はこれをとてもポジティブに捉えています。現場の業務に何がベストかを一番知っているのは事業部のスタッフですし、現場で主体的にリサーチして試したいというニーズ自体は非常に理にかなっています。IT部門の役割は事業の前線のスピード感を削ぐことや単に禁止することではなく、リスクアセスメントを行い「ガードレール」を迅速に敷いて安全に走れる環境を整えることだと思っています。
「それ、面白いですね!ただこういうリスクがあるので、このセキュリティ条件と運用ルールをクリアして使いましょう」と伴走し、現場とIT部門が互いの強みを持ち寄って業務に最適な方法を「一緒に開発していく」。それが理想の姿だと思っています。
戸田:最後に、ETIC.の採用へ応募を検討されている方へメッセージをお願いします。
高木:ETIC.は「決められた職務をこなすこと」はもちろんですが、「組織や事業のミッション(目指す姿)を達成すること」も重視するミッションドリブンな組織です。そのため、職種ごとの「仕事の境界線」が固定されておらず、外から見たらあいまいになっている場面があるかもしれません。
もちろん、セキュリティや職務権限といったガバナンスの枠組み・ルールを守ることは前提です。その上で、決められた役割の枠にとらわれず、仕事の「狭間」に落ちている事業課題をお互いに自発的に拾いながら進める方が、より大きなインパクトを生み出すことができると感じます。指示された仕事を淡々とこなすのみならず、「組織の目的のために、いま自分は何をすべきか」を自ら問いかけ、役割を定義していくフットワークの軽さが必要です。
適切な統制を効かせつつもカチッと決まった枠組みにとらわれすぎない分、自らの提案や判断で仕組みを作り上げていく大きな裁量とおもしろさがあります。事業の現場に深くコミットしながら、ITの力で組織と社会を変える基盤を作っていきたい方には、非常にやりがいのある環境だと思います。
戸田:現場から求められるニーズと、組織にとって本当に必要なこととのバランスを常に考え抜く姿勢、素晴らしいと思います。ありがとうございました!
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