社員インタビュー

「子育ち」「養育者」の視点で子育てしやすい社会を共創する。ETIC.コーディネーターインタビュー──本木裕子

「子ども支援」や「子育て」をめぐる環境が大きく変化するなか、企業や財団、NPOがセクターの枠を超えて協働し、社会全体で子どもや家族を支えようとする動きが広がりを見せています。

子ども本来の育つ力を信じる「子育ち」の視点、そして親だけでなく地域や関わる大人全体をゆるやかな「養育者」と捉え直す姿勢――。複雑化する課題に対して、支援する側・される側を超えた対等な「仲間」として、私たちはどのようにともに歩んでいけるのでしょうか。

休眠預金活用事業や企業との基金立ち上げなどを通じて、子ども支援領域のネットワークの「結節点」として伴走を続けてきたETIC.(エティック)ソーシャルイノベーション事業部の本木裕子に、現場での数々の出会いから深まった独自の視点と、中間支援組織として抱く葛藤や可能性について、同じくスタッフの林(りん)が聞きました。

やりがいを感じた子ども支援領域

林:本木さんは子どもの支援をしている団体を応援する事業を複数担当されています。どんなプロジェクトに、どんな立場で関わっているのですか。

本木:ETIC.に入ったときは、ソーシャルイノベーション事業部で領域問わず担当していました。きっかけは2019年に始まった休眠預金活用事業でした。資金分配団体という、助成を企画運営する事業として「子どもの未来のための協働促進助成事業」が採択され、それが子ども領域に特化した活動の始まりでした。

そのあと、子ども支援領域における基金事業のお声がけをいただきました。さらに、そういった活動を見た方からお声がけいただいて子ども支援基金事業をという流れです。

林:子ども支援の事業を続けて担当してきたのですね。そこには、どんな思いがあるのですか?

本木:ご縁が続いたことをきっかけに子ども支援の事業を続けて担当していますが、根っこには自分自身の課題意識があると思っています。私自身、子育ては大変だと日々実感しています。「子育て罰」とタイトルにある本が話題を呼んだことには衝撃を受けました。私の子どももですし、今の子ども世代が親になるときには、もっと子どもを育てやすい、子どもが楽しく育つ社会であってほしいと願っています。

そして、純粋に子どもを取り巻く課題を何とかしたい。その思いが、子ども支援の仕事を担当する今につながっているのだと思います。 

学びの連続だった。子ども支援で自身の価値観も変化

本木:以前ご一緒させていただいた団体が、「子育て」ではなく、「子育ち」支援と言っていたんです。子どもは適切な愛情と環境があれば、勝手に育つ。だから「子育ち」のほうがしっくりくるなと思っていて。

「子育ち支援」であり、それを育てる人、見守る人の支援ですね。私は最近「親」じゃなくて「養育者」って呼ぶようにしています。親だけじゃなく、里親さんも、地域で関わる人たちも、養育度合いの違いがあれど子どもの育ちに関わっていると思うんです。そういう人たちとの自然な関わりが増えるといいなと願っています。

林:なるほど。「子育ち」とか「養育者」という言葉を聞くと、本当に親子の関係だけでなく、周辺の地域や社会との関係も含まれていると感じます。これまで子ども支援に関わってきて、新たな視点を得たり、価値観が変化したりした出来事はありますか?

本木:価値観が変わるような学びの連続なんですが、数年前の私は心の中で、医療的ケアが必要な子に対して、「かわいそう」と思う気持ちを抱いていました。この子たちは何も悪くないのに、生まれつきや後天的な理由で医療的ケアが必要になっている。気の毒だな、お母さんたちも大変だろうなと思っていたんです。

でも、訪問介護をしている団体の方と話して、それは違うって気づきました。「その子どもたちは、かわいそうではないですよ。今のままで100点満点なんです」という話を、訪問看護団体の方から聞いたんです。

その団体の方が言うには、あるご家庭を訪問すると、お母さんがパンを焼いてくれていたそうです。日々のケアは大変なことも多々あるなかで、生活を楽しんでいて、充実した生活がにじみ出ていると感じました。片や私は「パンを焼くのは手間がかかって面倒だから買うほうがいい」みたいな感じで。素敵なママだなと憧れました。

その話から、子どもがありのままの姿で愛され、生活している様子が伝わり、幸せを感じました。そして私は間違っていたと自分に対して残念な気持ちになったのを覚えています。

林:自分の視点や軸が置き換わることによって、プロジェクトへの関わり方やパートナー団体との関わり方に変化はありましたか?

本木:この手法(Doing)をこう変えましたという話ではなく、在り方(Being)として、にじみ出ますよね。今だったら、人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアとともに生きる子に会ったときにも「かわいそうだな」っていう目じゃなくなっています。私の目が入れ替わったんだと思います。

ミッション達成に向けて、ともに、そしてETIC.として考える

林:パートナー企業さんの動きについても聞かせてください。企業からの声も増えていると思いますが、周りの動きとして感じていることはありますか?

本木:助成の市場でいうと休眠預金活用事業の影響は大きいと思います。企業の活動においては、ETIC.が子ども支援のプログラムを持つようになったので、子ども支援領域で何かやりたいと思ったときに、お声がけいただくことがあるんだと思います。

林:企業を含めた他組織との協働で、気づいたことや難しさはありますか?

本木:難しさはありますね。担当の方の思いと、組織のタイミングなどが異なることがあったりしますし、それまでにない新しいプロジェクトを始めることもあるので、これをやればいいという明確な正解があるわけではなく、協働先と一緒につくっていくのだと考えています。

でも、民間の資金を公的な資金が届きにくいところに届けることはすごく価値があるし、やりがいもあります。助成する側のニーズやめざすものと支援先団体のニーズ、そして成果との兼ね合いを掛け合わせて、どこに届けるかをデザインするのが中間支援の仕事だと思っています。

林:ETIC.が行っている具体的な支援についても教えてください。ETIC.は中間支援としては何をしているのでしょうか?

本木:ETIC.は、「こんなことをやってみたい」という人に伴走し、「何をしたらいいか」を一緒に考える人であり、NPOのネットワークや支援の知見をもっています。

支援先の団体にとって、ETIC.が関わっている意味は、単にお金の助成だけじゃないということだと思います。現場で大事な活動を担っている方たちが最大のパフォーマンスを出せるように、できることをやるという役割です。団体同士の横のつながりも大事にしています。

林:子ども支援をどの立場で見るかというときに、「対象である」というスタンスと「当事者である」というスタンスがありますが、裕子さんやETIC.の人からは「仲間である」という視点を強く感じます。「やっぱりそれおかしいよね。だから一緒に変えようよ」みたいなノリでやっている感じですね。

本木:基金、子ども支援団体、もちろん私たちも同じ船に乗っていると思っています。助成をする側と、その受け手であり現場を持つ人という役割は違えども、ミッション達成のために一緒に取り組んでいます。

林:子ども支援領域で何が一番難しいと思いますか?

本木:コンプレックスとコンプリケーテッドの話かなと思います。NASAがロケットを飛ばすのはすごく難しいけれど、マニュアル通りにやればできるのが「コンプリケーテッド(複雑)」。一方、子どもは「コンプレックス(多様・不確実)」※といわれています。

子ども2人を同じように育てていても違いが出てくる。漢字を100個覚えたら次のステージに進む、みたいなものじゃない。一筋縄ではいかないし、それが人間の良さでもあります。そんな「ひと」を相手にし、さらにはひとり親家庭の増加や医療的ケア児など、社会の変化に付随する環境の複雑さもあります。この不確実さが、人を相手にする子ども領域の活動には特にあると考えています。

※本来は、Complicated=複雑、Complex=複合・混沌・不確実と訳し分けられます。本文では、ロケットのように要素が多くても予測・制御可能なものを「複雑」だと捉え、子どもは、一人ひとりの性格や発達のペースが異なる「多様さ」と、同じ働きかけをしても反応や成長の進み具合が変わる「不確実さ」を持つ存在だと言い表しています。

みんな年をとる。みんな子どもだった。身近な子ども支援団体に関わりを

林:子育て支援の難しさを抱えながらも、一番のやりがいは何ですか?

本木:一つは単純で、自分が触れられる範囲で、ご一緒している団体や、関わる子どもに良い変化があるという「手触り感」ですね。

私が究極的にどこに支援を届けたいかというと、やはり「今、困難を抱えている人がもう少し楽に生きられるといいな」というところなんです。小学校のときにユニセフ募金の冊子で、生まれたところが違うだけで暑い中で水汲みをしたり、「女の子だから字が読めない」という話を見て「それはおかしいよね」と思ったんです。なぜかわかりませんが、その小学生の頃の気持ちが今もあるんですよね。

林:各セクターの役割や可能性についてはどう感じていますか?

本木:セクターを超えた連携が進んでいると言われますし、それは確実だと思います。その根底にあるコミュニケーションがスムーズに流れるようにするのは、間に立つ場面の多いETIC.の一つの役割だと思っています。

そしてその先に願っているのは、一人ひとりの変化です。みんな必ず年をとるし、みんな子どもだった。誰もが支えられる側にも支える側にもなると思っています。一人ひとりに、身近なところからの変化が積み重なっていくことが大切だと思っています。

林:最後に、この記事を読んでいる方にメッセージを。

本木:近所の団体に顔を出してみてほしいです。こども食堂やフードパントリー、公園のプレイパークなど、意外と身近にあります。また、この領域で仕掛けたい方はもう仲間だと思っているんで、「何したい?」って感じです。

林:ありがとうございました!

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