社員インタビュー

「アントレプレナーシップの裾野拡大」は、ETIC.のミッションそのもの。10年間取り組んできて思うこと。ETIC.コーディネーターインタビュー第2弾──佐々木健介

ETIC.では、スタッフ一人ひとりが自ら実現したいテーマ・アジェンダを持ち、それを事業として推進中です。スタッフそれぞれがアントレプレナーシップを発揮して、社会へのインパクトを最大化することを目指しています。

コーディネーターインタビューの第2回は、「アントレプレナーシップの裾野拡大」をテーマに、担当の佐々木健介に、事業に対する想いや、具体的な取り組みを聞きました。

ーー「アントレプレナーシップの裾野拡大」というテーマは、まさに起業家精神を広げることで、ETIC.のミッションそのものです。10年間、TOKYO STARTUP GATEWAYを実施してきて、いま日本における起業家精神の広がりをどうとらえていますか?10年間このテーマと向き合ってきて、何を感じていますか?

佐々木:TOKYO STARTUP GATEWAY(東京都主催、ETIC.事務局のビジネスプランコンテスト)では、毎年エントリー数を増やすことはできてきて、2025年度は過去最多の4,418件と、手ごたえは感じています。一方で、日本全体で若者たちの起業家精神、起業家になることへの関心が高まっているかというと、そんなことはなく、そこは深刻な課題だと思っています。ETIC.にいると、年々高まっている感覚もあるのですが、それが実際の社会のデータとは繋がっていないんです(Global Entrepreneurship Monitor によれば、日本の18〜24歳の起業活動率は1.9%。韓国(2.6%)、ドイツ(4.9%)などと比べても低い傾向)。

政府が掲げるスタートアップ5か年計画もあり、普通の高校でも起業家教育が始まっていて、それ自体は革命的なことです。ビジネストレーニングというだけでもハードルが高かった学校や教育委員会が、今やアントレプレナー教育が大事だと言う声も高まっています。投資家の活動範囲も若年層に広がり、若い起業家も続々と増えています。ETIC.が運営する大学生向けの起業塾「MAKERS UNIVERSITY」に応募する学生も多いですし、大学生起業家も当たり前のようにいます。

TOKYO STARTUP GATEWAYの一次選考でも、例えば東大生のエントリーは大変多く、トップ層の変化を強く感じます。コンサルなどへの就職を選ばずに、起業を目指すトップ層が出てきています。世の中は変わっていないというデータがある一方で、変化の兆しも至るところで感じられる。もうほんの少し、何かのスイッチを押せば、世の中が変わっていくのではないかと思っています。

国の働きかけと、高校の探究学習。アントレプレナー教育をめぐる2つの流れの変化

ーー社会が変わる兆しを感じているのですね。なぜいま高校ではアントレプレナー教育が注目されているのでしょうか?

佐々木:ひとつは政府の流れです。文科省・中企庁はジャパン・アントレプレナーシップ・アライアンスを立ち上げました。私も参加させていただきましたが、全国の都道府県や自治体がアントレプレナー教育を進めようとそれぞれの取り組みを仕掛け始めています。もともとは「スタートアップ創出」からの流れでしたが、今は地方も含め都道府県レベルでも「アントレプレナー教育」をやらねば、となっています。

もうひとつは、高校での探究学習の広がりです。大学入試でも総合型選抜が増え、高校も特色を出そうとする中で、探究学習が広がっています。定員割れの危機感のもと、何かをしなければという動きもあります。アントレプレナー教育は、探究学習の動きのひとつとして、関心が高まっています。

休眠預金も活用。高校生の起業と地域内の起業支援エコシステムをつくる

ーー今年は休眠預金活用事業にもチャレンジしました。この狙いは?

佐々木:ここまでの社会の良い流れを感じながらも、このままではいけないという課題も強く感じているからです。

結局、学生側も、取り組みを推進している側も、極端に言うと二極化しています。スタートアップ育成をしようとするあまり、投資は進んでいるものの、人材育成の観点がもう一歩必要です。学生は経験もないわけだから、経験を積み重ねて、どこかのタイミングで花が開けばいいわけですが、そうなっていない。10名のうち1名だけ結果が出ればと言う視点では、裾野が広がらない。社会を変えるためには、「人材育成の視点」がもっと必要です。

一方、アントレプレナー教育側も、ビジネスに触れておいたら将来のためによい、先輩起業家の話を聞くことで刺激が得らえるということで、この流れ自体は歓迎すべきですが、例えばその中で、もっと踏み込んでチャレンジしたいと言う若者がいても、受験勉強・進学や、世間体的に、かならずしも応援される状況にはありません。親が起業という選択肢や起業家精神の価値観に接してこなかった場合、子どもが起業に関心をもっても、必ずしもよいナビゲーションがされない。

このような課題を解決するためには、「起業家人材育成」は「アントレプレナー教育以上、スタートアップ育成未満」と考えて、分厚い起業家予備軍層を増やしていくアプローチが大事だと考えています。若年層で、この層を育てていきたい。ここの分厚い起業家予備軍層が全国に広がっていけば、チャレンジしている人が同世代にも増え、例えば地方の高校などでも、起業が身近なものになっていくはずです。

休眠預金活用事業では、『高校生・若者と地域の起業を増やす社会基盤形成プロジェクト~若者が環境に左右されず事業を生み出せるようになる「実践型起業支援モデル」の展開~』をNPO法人北海道エンブリッジとのコンソーシアム申請で、2026年度より3年間の事業を行っていきます。

実行団体のミッションは2つ。「起業家的経験ではなく、起業家を輩出する」ことと、「地域に支援エコシステムをつくる」こと。例えば、高校や大学としっかり繋がって、高校には起業支援ナビゲーターの先生がいて、起業を考えている生徒に「君はここまで考えているんなら、地域のこの団体に行ってみるといいよ」と紹介する。そして、高校から紹介された生徒が起業プログラムに参加していくという、発掘と育成のエコシステムを各地でつくりたい。さらに、リソースの多い首都圏のエコシステムともつながって、例えば、金沢の高校生に東京のメンターがアドバイスしたり、他の地域の高校生同士の交流も進めていきたいですね。

ただこれは、いきなりできるわけではないので、最初の実行団体5団体とコアな繋がりをつくり、3年後ぐらいに50団体ぐらいにまで広げていきたいと思っています。

ふるさと納税の寄付を活用し、既存事業の枠ではできない研究開発を実施

ーー今回ふるさと納税での寄付も受け付けています。去年までの成果と報告、今回の狙いを教えてください。

佐々木:創造的越境キャリアの人材育成領域を盛り上げようと、NPO法人Leap forと連携してプロジェクトをやってきました。創造的越境キャリアとは、例えば、文部科学省のトビタテ!留学JAPANでの留学など、そういう経験をした人たちの起業支援です。

TOKYO STARTUP GATEWAYは、プログラムを運営する予算自体は東京都からの委託なのですが、プログラムの枠に当てはまらない部分で、やるべき重要な取り組みがあると思い、進めてきました。それが研究開発です。

エントリーした多くの人たちが、それぞれどこを目指していて、どこまで挑戦していくのか。彼らに起業家精神を存分に発揮してもらうための研究開発的な投資は、既存の委託事業ではできない。そこで、ふるさと納税での寄付を活用し、事業開発のプロである一般社団法人 GEMSTONEの深町英樹さんに、TOKYO STARTUP GATEWAYのビジコンにエントリーした約3,300人(2024年度)の分析をして、対象層をわけ、それぞれのステージごとのプログラム開発をしました。この分析とプログラム開発があったからこそ、今回の休眠預金活用事業の採択に至ったと思っています。

ふるさと納税での寄付は、こうした戦略的な研究開発のための財源に使わせていただいています。また、現在は、多様なセクター間の協働による社会課題解決、コレクティブインパクトも目指しています。そのための事務局予算も今後は必要になってきます。TOKYO STARTUP GATEWAYや休眠預金活用事業のように、プログラムを動かすだけでなく、それらの動きの重要なバックボーンとなる事業のために、ふるさと納税による寄付を引き続き使わせていただきたいと思っています。

そういう思いで、今年も、『渋谷区ふるさと納税型クラウドファンディング「若者が環境によらず、創造的に挑戦できる「人づくりの基盤」を造るプロジェクト」』のページでご寄付を受け付けています。

ーー起業家精神が広がることで、社会はどのようになるでしょうか?

佐々木:ちょっと大げさに言うと、VUCAの時代とか、AIの時代とか、いろいろと言われていて、社会は不安の中にあると思います。一方、起業家と呼ばれる人たちは、それぞれが「こんな世の中にしたい」と強く思ってチャレンジしています。人のせいにしたり、分析するだけではなく、自分が「こんなまちで暮らしたい」と思い、実現のために強烈に人を巻き込んでいって、新しいまちや暮らしができていきます。いい世の中になり、いいまち、いい暮らしが増えていくために、そうした起業家たちが増えていって欲しいと思っています。

起業家精神というのは、私自身もそうですが、特別に選ばれし者たちだけに授けられるものではないという信念があります。起業家精神が育まれる環境にいるからこそ、そうなっていく。自分は、強くやりたいこともなく大学に入りましたが、多様な思いとチャレンジをしている仲間と多く出会い、、「君は何をやりたいのか」と常に問われてくる中で、自分も動いてたいという感覚が強く育まれました。そうした場があれば、色々な人たちが変わっていきます。

過去にETIC.で取り組んでいたインターンシップ事業でもそうでした。起業家育成は、そうした環境をつくることで、人を変えられる領域だと思っています。だからこそ、「1万人いれば1人ぐらい成功するスタートアップが生まれるだろう」という考え方ではなく、「1万人の起業家精神が伝播するコミュニティがあれば、多彩な1万人の起業家が生まれる」。これによって、よりよい社会がつくれると信じています。

⚫︎12月31日23時59分までご寄付を受け付けています。

渋谷区ふるさと納税型クラウドファンディング「若者が環境によらず、創造的に挑戦できる「人づくりの基盤」を造るプロジェクト」