社員インタビュー
「いい人いない?」「おもしろい仕事ある?」起業家支援コミュニティの期待から始まったソーシャルセクター人材支援。13年間で変化した市場と、幸せな転職の秘訣とは。ETIC.コーディネーターインタビュー──腰塚志乃
近年、気候変動や格差の拡大といった社会課題が一段と深刻化するなか、企業における社会貢献やフィランソロピーのあり方が大きく変わりつつあります。フィランソロピーは単なる寄付ではなく、企業・個人・NPOが協働しながら社会変革を生み出す営みへと広がっています。
日本企業のあいだでも、より本質的なインパクトを生み出したいという思いが芽生え、社員参加型の取り組みと結びつくなど、社会貢献のかたちがより大規模かつ複合的になりつつあります。
こうした変化の最前線で、企業やそこで働く個人と日々向き合い伴走を続けているETIC.ソーシャルイノベーション事業部の白鳥環に、ETIC.の山内幸治が、フィランソロピーの可能性について聞きました。

山内: 今日は、フィランソロピーの領域で、白鳥さんが今どんな景色を見ているのか聞きたいと思っています。まず、最近はどんな仕事をしているのか、教えてもらえますか?
白鳥: 今の業務は、大きく分けて2つあります。1つは「社会起業塾」のスタートアップコースのプロジェクトマネージャーです。受講生が15人に増えたので、グループ制の伴走支援に切り替えたり、今の時代に合った講座を取り入れたりと、内容をアップデートしているところです。
もう1つが、主に企業の社会貢献に関する業務ですね。特に深く連携させていただいている大手金融系企業とは、現在進行中のプロジェクトが4つほどあります。従業員基金の寄付プログラムや、プロボノ制度の運営などです。プロボノでは、昨年、大手金融系企業と大手コンサルティングファームとの共催で1Dayプロボノのワークショップを開催しました。ほかにも、研究者支援の助成プログラムや、大学での起業家教育の立ち上げに関するプロジェクトが進んでいます。
また、社会起業塾の文脈でも、パートナー企業の皆さんと社会貢献の方向性を議論しています。
山内: 白鳥さんは、どういう思いでその領域の仕事をしているんですか。
白鳥: 大きな目標として掲げているのは「企業のソーシャル化」です。企業で働く個人が「ソーシャルアントレプレナーシップ」を持って働けるようになること、そして企業という組織そのものが、社会的な視点を持つ組織へと進化していく。そこを目指して、この領域で仕事をしています。
山内: なるほど、高い視座で考えていますね。それを具体的な事業やプロジェクトに落とし込んだとき、どうしていきたいと考えているんですか?
白鳥: 2つの視点があります。1つは、社会課題の体感研修やプロボノを通じて、企業人が「社会との接点」に気づく機会をつくることです。社会との関係性の中にいる自分を自覚する。この意識の転換こそが、企業の社会貢献やフィランソロピーが広まるための土台になると考えています。
例えば、ある大手電気メーカーの幹部研修では、研修後にニュースを丁寧に読むようになったり、社会課題を「自分事」として捉え始めたりといった変化が起きています。こうしたノウハウをしっかり溜めていきたいですね。
2つ目は、より良い連携の仕組みをつくって、私たちが実際に担い、発信していくことです。最近は日本企業の社会貢献も大規模化し、本業との連動や社員の参加が求められるようになっています。以前はこうした大型案件は外資系金融機関が中心でしたが、今は国内の大手飲料メーカーや大手金融系企業のように、日本企業が本気で取り組むようになっています。戦略策定から実行、評価まで一貫して任せられる専門組織として、エティックが選ばれるケースが増えています。
山内: 白鳥さんが今の仕事を始めたのは、いつ頃からでしたっけ?
白鳥: 2018年頃なので、だいたい7〜8年前ですね。
山内: その頃から今まで、風向きの変化をどう感じていますか? 業界全体の変化も含めて教えてください。
白鳥: 「企業が社会課題解決に携わるのは当たり前」という認識が、ベースとして定着したと感じます。NPOや地域と連携しなければならないという空気感も強まりましたね。日本では2010年代前半まで、一部の外資系企業が主に社会課題の根本解決に挑む「システムチェンジ」や大きなインパクトを生み出すための活動に取り組んでいましたが、先進的な日本企業のあいだでも「より本質的なインパクトを生みたい」という志向が芽生えてきました。
社員参加型の取り組みと、こうした一歩踏み込んだアプローチが組み合わさってきている——これがこの7〜8年の大きな変化だと感じています。
山内: その変化は、具体的にどういうところで感じますか?
白鳥: 一部の大手企業から、より大規模な取組みに関する相談がエティックに直接持ち込まれるようになったことですね。また、イベントなどでCSR担当者の方々と話すと、上層部との調整や社内の合意形成に難しさを感じながらも、「外部と連携して何かを変えたい」という思いを持つ方が着実に増えていると感じます。
山内: その、本質的なインパクトを目指す大規模な動きが日本企業に広がっているのは、なぜだと思いますか?
白鳥: 私の知るところでは、経営トップの決断が発端になっているケースが多いです。大手金融系企業では前社長が「社会的価値創造推進部」を作られたり、創業家由来の問題意識で大きな予算を動かす大手企業もあったり。社会課題の深刻化を「自社の事業基盤に関わる課題」として、つまり自社の問題として捉える経営者が増えたからではないでしょうか。
山内: 地域の経営者は、人口減少や採用難が商売に直結するからわかりやすいけれど、都市部の大企業のトップがそこまでコミットするのは、なぜなんだろう。
白鳥: 経営者の方の動機にも2つの方向があると思っています。ステークホルダーからの要請がきっかけになる場合と、自社と社会の関係そのものへの問題意識から動く場合です。後者のように個人の問題意識が起点だと、その経営者が交代したときに取り組みが弱まってしまうことがある——この点は海外の研究でも指摘されています。そこで最近注目されているのが「マイクロCSR」という概念です。
山内: マイクロCSR、それは興味深いですね。
白鳥: 個人の認知に焦点を当てた考え方です。CSRを組織や制度といった大きな単位だけで捉えるのではなく、一人ひとりがそれをどう受け止め、どう関わるのかという個人レベルに目を向ける考え方ですね。
私自身は、ここから「自社と社会の関係を実感として持っている個人こそが、本質的な社会性のある事業を動かす起点になる」と捉えています。だからこそ、そうした個人を増やすことと、トップが交代しても取り組みが止まらないよう社内の制度もあわせて整えること、その両方が要る。
海外では、トップにはエンゲージメントや収益とのつながりなど事業面での意義を共有しつつ、現場にいるミドル層のチェンジエージェントが動きやすい環境を整えておく、といった戦略的なアプローチが研究されています。
山内: なるほど。トップの認識がすぐに変わるのは難しくても、少なくともミドル層が動きやすいような手を打っておく、というわけですね。
山内: 今、私たちはプロボノなどで「個人の意識を広げる」裾野の部分を担っているけれど、次の打ち手としては何が必要になると思いますか?
白鳥: 裾野を広げることと、ミドル層(チェンジエージェント)の育成。これがエティックの役割だと思っています。一部の企業からは、数千人、数万人規模で社員をプロボノやボランティアに関わらせたいという、これまでとは桁違いのご相談も寄せられるようになりました。それを受け止めるNPO側のキャパシティも育てなければなりません。この「スケールさせていく」段階に関与することが、今のエティックに求められていることではないでしょうか。
山内: スケールさせていく領域は、まさにエティックの総合力が活かせるところだね。
白鳥: はい。日本で働く人の約7割は中小企業で働いていますが、地域に根ざした企業へのインターンシップなどは、まさに社会との関係性を自覚する原体験になります。大企業に対しても、地域の臨場感とセットでアプローチできるのはエティックの強みです。ただ、エティックの中でも「企業の社会貢献に関わることも起業家育成と同じくらい重要だ」という意識をもっと共有していく必要があると感じています。
山内: いろいろとお話を聞けて良かったです。白鳥さん自身のやりたいことは実現できていますか?
白鳥: はい、よりシャープになっています。「企業のCSRと社会起業家育成の両方をやりたい」という学生時代の想いが、今まさに仕事になっているので、良い職業人生を歩めているなと感じます。
次の世代のチェンジエージェントたちが経営層になっていく未来を見据えて、長期的な関係を築いていきたいですね。今はまだ担当者レベルでも、彼らがいつか会社を動かす立場となり、社会課題により本質的に向き合う取り組みについて意思決定をする立場になったときに、「エティックと一緒にやろう」と言ってもらえるような信頼関係を、今からつくっておくことが大切だと思っています。
山内: それは本当に重要だね。最近お声がけいただいた大手保険会社との連携も、東日本大震災の震災復興で苦楽を共にした当時の担当者が、専務になられたことがきっかけでした。何かを共に企み、協働した経験は、時間が経っても必ず大きな力になりますね。
白鳥: 本当にそうですね。今日はありがとうございました。
山内: こちらこそ。魂の入った話が聞けて、とても良かったです。
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